屋上で

 放課後…今日は結局あれから露那が変なことをすることはなく、話しかけてくることもなかった。

 それも当然かもしれない、あそこまで俺が塩対応どころか辛対応をしたんだから、むしろそのぐらいの効果が無いと困る。

 俺は教室から出る前に、改めて優那ちゃんの配信スケジュールを確認する。


「今日は、二十二時からか…」


 いつもよりだいぶ遅いな…まぁ優那ちゃんも忙しいだろうし、俺なんかがどうこう言えることでもないな。

 俺はそれを確認すると、スマホをポケットに収め、教室を出る。


「…ん?」


 直したスマホから直後通知音が鳴った。

 なんの通知かと思い、スマホ画面を開いてみると…


『露那』


「…露那?」


 俺としては嫌だけど学校にいるならわざわざメールじゃなくて直接言ってくれば良いのにな。


「まっ、直接言われようとメールで言われようと、俺の意見は変わらな……」


 俺は何を言われても変わらないと言う決意で露那のメール画面を開いた。

 …が。

 そこには、学校の屋上と思われる場所の写真と共に…


『待ってるからね……』


「っ…!」


 俺はすぐに学校の屋上に向かう。

 いくらなんでもこれは不吉すぎる…!

 もし俺が行かなかったら屋上から飛び降りるとでも言う気なのか!?

 それが嘘にしろ本当にしろ、俺には選択肢などなく…


「あっ!来てくれたんだねっ!」


 すぐに屋上に向かった。


「はぁっ、はぁ〜…来てくれたんだねじゃ、ない…なんの、つもり、だ…」


 俺はダッシュで来たため、息が切れてしまっている。


「なんのつもりじゃないよ、奏くん、そろそろ機嫌直してくれないかな?」


 屋上は基本的に誰もいない、立ち入り禁止というわけではないが、少し前にここで自殺未遂の事件があってから暗黙の了解でほとんど誰も来ることはない。


「俺は機嫌が悪いから別れたって言ってるんじゃなくて、本当に……」


?」


「……え?」


「奏くんの言うこと次第によっては私、飛び降りるから…」


「なんでそうなるんだ…!俺は言われた通りここに来ただろ?」


 俺がそう返答すると、露那は左足を一歩後ろへと下げる。


「お、おい…!」


 俺が露那に近づいて露那が落ちようとするのを引き止めようとするも…


「来ないで…近づいたら本当にすぐに飛び降りるよ?」


 この学校は校内だけで4階…屋上を含めれば5階分の高さがある。

 そんな高さから落ちたら露那は……


「私のことは気にしないで、奏くんが想うように答えて」


 俺の返答次第で飛び降りるって言われてる状況でなんて…俺に選択肢なんてあるようでない。

 とは言え、ここで簡単にうんと頷くようならあの決意が無駄になるし、露那と復縁するにしてもまた同じ道を辿ることになるだろう。

 でも露那が嘘を言ってるなんてことは絶対にありえない、もしここで俺が断れば露那は一切の躊躇なく屋上から飛び降りることだろう。

 元恋人だったんだ、そのぐらいはわかる。


「露那……」


「あっ、ぁぁ……」


 俺が露那に返事をしようとしたところで、突如露那が頭を抱えて呻き声を上げ始めた。


「え、露那……?」


「もし私だけがここから落ちて死んだりしたら、私が死んだ後、奏くんが私以外の女と付き合わない保証はない…もし仮に今約束したところで、奏くんがそれを守ってくれる保証も無いし義務も無い…じゃ死ねない…」


 よく分からないけど、どうやら死ぬなんて言うのはやめてくれそうな流れだ。

 死んだりさえしなければ、俺だって本音で話せる。

 改めて言うんだ。


「露那、俺は……」


「だから、ここで奏くんに断られたら…2人で一緒に飛び降りるしかないね」


「え…!?」


 な、なんでそんな思考になるんだ…!?


「あ、ごめん、奏くん、答えてくれようとしてたね…お願い」


 お願いって…!

 こんなの本当に選択肢なんてないだろ…!

 ここで頷いたらせっかく抜け出せたあの日々に逆戻り…かといってここで首を横に振れば俺の人生そのものから抜け出すことになってしまう。

 それじゃ本末転倒どころの話じゃない。

 ……でも。


「このまま恋人になっても、また前の二の舞になると思うんだ」


「前の…?奏くんが浮気しちゃったことの話?」


「違う、俺は浮気したつもりはないのに露那が浮気したって決めつけて喧嘩になることだ、実際さっきだって俺が秋ノ瀬さんとちょっと話しただけで怒ってただろ?」



「そうだね」


「でも、俺は例え露那と恋人だったとしても、他の女子と話したらいけないなんてことには到底納得できない」


 これをわかってくれない限り、絶対に露那とよりを戻すわけにはいかない。


「…そっか、じゃあ一緒に死の……」


「でも!恋人になるのは断るにしても、別に一緒に居るのを拒んでるわけじゃないんだ、友達としてなら幾らでも居てくれていい」


「それって奏くんにとって、私は他の人間と同じ価値ってことだよね?」


 このままだと「じゃあ死ぬしかないね」とか言ってまたさっきのところとループする可能性が高い…仕方ない。

 本当は嫌だけどこっちからちょっと譲歩するしかない。


「違う…そうだな、ふ、復縁する条件とかを決めたりすれば、同じことの繰り返しにはならないかもしれない」


「私は別れたつもりなんて無いけど、奏くんが別れたつもりでいるなら…そうだね、それで良いよ」


 露那はあっさりとこの提案を承諾してくれた。


「えっ、良いのか?」


 俺はあまりにもあっさりとしていたため、改めて聞き直す。


「うん、奏くんと復縁するためなら、どんな条件でもクリアできるからね」


「……」


 露那は自信を持っているみたいだったが、これは好都合だ。

 自信があるということはこっちが多少難しい条件を提示しても怒ったりはしないだろう。

 なら…


「じゃあ……」


 俺が条件を提示しようとしたところで、学校中にチャイムが鳴り響いた。

 や、やばい…!


「露那!この話は一旦後だ!すぐ教室に戻るぞ!」


「うん」


 チャイムが鳴ったため、俺たちはすぐに教室に戻った。

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