動き出す日常
明日行く、これは昨日から見ての明日…今日だよな。
「……」
そういうことか…露那は今日この辺のどこかに用事があって、そのついでに俺に会いに来るつもりだってことだ。
なんで転校先の住所を覚えてない俺の住所を知っているのかはわからないが、露那ぐらいのスペックがあればそのぐらいできても不思議じゃない。
「…とにかく今日は遅くに帰るようにしよう」
放課後に入ったら姉さんに今日は遅くなるっていう連絡を入れておこう。
高校に入りたての時は一緒に帰ろうとうるさかった姉さんだが、高校生にもなってそれは恥ずかしすぎるため、それだけは全力で断らせてもらった。
そんな風に今日露那からどうやって逃れるかを考えていると、もう数分経っていたらしく、電車がやってきていた。
「そ、そういえば露那は何両目だ…?」
改めて露那の方を見てみると、露那は女性専用車両のところに並んでいた。
露那ほど綺麗だとそういうところも気をつけているんだろう。
「…今日だ」
今日さえ逃れることができれば、早々簡単に来られる距離じゃない。
最悪今日は家に帰らない覚悟で行こう…
俺はそんな決意を旨に電車に乗り込む。
…電車は数分で次の駅に着き、俺も目的地についたため電車から降りる。
「は、早いうちに学校に向かおう…」
俺はできるだけ女性専用車両から離れるように離れるようにと移動し…
「…ん」
右肩が軽く2回叩かれた気がする…いや、気のせいか。
こんなに大量の人がいれば多少ぶつかることもあるだろう。
俺は改めて女性専用車両からは反対の方へと移動……
「……」
気のせいじゃない…気のせいじゃないぞこれは…!
明らかに誰かに右肩を軽く叩かれている。
俺はだんだん怖くなってきたため、少し早歩きになる。
「……」
1分も早歩きをしていれば、そろそろ人気も無くなってくる。
そこで気づく、明らかに誰かが俺の真後ろにいることに。
「ねぇ!ねぇってば〜!」
この声は幻聴だ、聞くな、聞くな…!
きっと俺の恐怖心が生み出した幻聴だ、そうだ、そう思うことにしよう。
「ねぇ〜!奏くん!聞こえてるよね〜!」
と、そこでようやく真後ろにいる人に俺は左手を握られてしまい、足を止められてしまう。
そして…
「もうっ!なんで逃げるのっ!せっかく久しぶりに会えたのにっ!」
後ろから俺の前に回ってきたのは、絶対に会わないように会わないようにと気をつけていた…露那だった。
相変わらずその容姿はとても整っていて、黒髪のサラサラな髪の毛に見ているだけで見惚れてしまう顔立ち、それにこの見るものを射抜く目と見るものを悩殺する口は本当に反則だろう。
なお、中身を知らなければの話である。
どんなに綺麗な人でも、中身が良くなければ俺は絶対に嫌だという根本的な考えがあるため、今更どうとも思わない。
その辺のことは別れを告げた時に全て決断した。
「前にも言ったけど、俺はもう会いたくないんだ」
「もう〜、まだ拗ねてるの〜?」
「拗ねる拗ねないとかの話じゃないんだ、俺たちはもう別れたんだから、赤の他人だ」
「ほら〜やっぱり拗ねてるよ〜」
「だから拗ねるすねなとかの話じゃなくて!俺たちはもう恋人でもなんでもない赤の他人なんだって!」
「うんうん、こんなに何ヶ月も拗ねちゃってさ〜…しかもそのタイミングで奏くん転校しちゃうし、奏くんの新しいメールアドレスも調べるの大変だったんだからね〜?」
…え?
まさかとは思うけど…
「お、俺が別れを告げたことを、ただ俺が拗ねただけだと思ってるのか…?」
「ん〜?思ってるも何もそうだよね〜?」
「…っ」
嘘だろ…?
俺が決死の覚悟で告げたことがただ拗ねただけで済まされてるのか…!?
「違う!拗ねてるどうのじゃなくて、俺は本当にもう露那とは別れたつもりなんだ!」
「なんて言われも〜、あっ、でも大丈夫だよ、奏くんが機嫌を治してくれるために、私実は色々と考えてあるから〜」
「…色々と…?」
「うんっ♪今そのことは良いから、早く学校行こ?」
…ん?
「行こって…何言ってるんだ、俺と露那は違う学校だろ?」
「ん?あっ!言い忘れてたっ!今日からは同じ学校だから、改めてよろしくねっ!」
「えーっと…ん?」
同じ…学校…?
…え?…え!?
「そ、それって、つまり…?」
「うんっ♪今日からはまた一緒に登校も下校もできるってことだねっ!」
「……」
……。
「もう〜!奏くん〜!嬉しすぎて固まっちゃうのは分かるけどここは人気が少ないって言っても一応人通りはあるんだから、早く学校行っちゃお?早く行かないと遅刻しちゃうかもしれないしっ!」
…俺は今本当にただただ活力を失っており、もはや逃げる気力すらもなかった。
露那が同じ学校に転校してきたなら、今逃げてもまた次の日、その次の日も逃げられる保証がないからだ。
露那は相変わらずまだ俺と恋人のつもりなのか、遠慮なく俺の腕を組んでくる。
「っ…!」
俺はかろうじて残っていた活力で露那の腕を振り解こうとするも、露那は俺の腕から離れない。
そのまま学校の校門前まで来てしまい……
「え、誰あの子?」
「この学校にあんな子いたっけ…?」
「可愛い…」
「あの隣の男、もしかして彼氏?」
「っ…!」
最悪だ…!
このままじゃ俺と露那が恋人なんていう最悪の噂が流れてしまう。
せっかく前の学校のそういう雰囲気から逃れられたのにこの学校でもそうなるのはごめんだ。
「は、離してくれ!」
「ん〜!もう〜、照れないのっ!」
と言うと、露那はさらに力を強めた。
…人に使う表現ではないのかもしれないけど岩に固められている気分で、とても岩に抵抗する気にはなれなかった。
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