Fクラス

 そしてそのまま校内に入るが…


「…そうだ!露那のクラスはどこなんだ?クラスが違うならこのまま一緒に行くわけにも行かないだろ?」


「え?なんで?」


「この学校はA〜D、E 〜H組で棟自体が別れてるんだ、A〜DがA棟、E〜HがB棟、だから棟が違うならこのまま一緒に行くわけには行かない」


 露那から離れる口実としては十分なはず…あとは神様が露那のクラスをどこに振り分けたかだ、頼むから俺のFクラスとは違っていてくれ。


「ん〜、どうせ私と奏くんはずっと一緒って決まってると思うから、わざわざ確認するまでも無いよ」


「そんなこと言って転校初日から遅刻したらどうするんだ?同じ校内とは言え棟はちょっと離れてるんだ」


「え〜、あっ、じゃあこうしない?」


 露那は腕組みを外し、得意げに人差し指を立てて言う。


「このまま私は奏くんの腕を組みながら自分のクラスに向かって、もし奏くんとクラスが違うかったら私はもう金輪際奏くんに関わろうとしない」


「えっ、本当か!?」


「うん、でも…もし同じクラスだったらこれからも一緒にいてね?」


「…一緒にいるかはわからないけど邪険には扱わないようにするってことで良いだろ?」


「うんっ♪それでいいよ」


「……」


 これは非常に良い話だ。

 クラスはA〜H、つまり合計八クラスある。

 八分の一の確率…そうそう簡単に被ることはないだろう。


「なら、それで行こう」


 そして露那は足を進める。

 まずはどっちの棟かだな。


「私はBのクラスみたいだから、B棟に行くけど…奏くんは?」


「…B棟だ」


「だよねっ♪」


 そのままB棟へと向かい、階段を登る。

 2年生からは3階なため、3階で足を止める。


「…そう言えば、なんでこの学校の構造を知ってるんだ?」


 露那は今日転校してくると言う割に進む足からは全く迷いを感じない。


「さっき校内に入ってすぐのところに学校の見取り図があったでしょ?」


「あぁ、あったな」


「……」


「…え?それで?」


「それでも何も、私の返答は終わっちゃったよ?」


「…えっ?」


 まさか…一瞬見ただけで覚えたのか。

 さっき校内に入って確かに見取り図はあったが、その時も露那は足を止めず歩いていた。

 …あの一瞬で、か。


「で、じゃああとはクラスに向かうだけだねっ」


「……」


 教室は4つが連なっている形で、手前からE、F、G、Hだ。

 それは2階の1年生も上の3年生も同じだ。

 露那はまたも迷いなく足を進め…

 Hクラスを通り過ぎ…Gクラスをも通り過ぎ…

 Fクラスの前で足を止めた。


「はいっ、どうかな?」


「どうかなって、え?露那もFクラスなのか?」


「うん、そうだよ?露那ってことは、やっぱり奏くんもFクラスなんだね?」


「そ、そんな…」


 軽く絶望している俺を他所に、露那は俺と腕を組み直し…教室の中へと入った。


「…えっ」


「…誰?」


「転校生?」


「か、可愛い〜!」


「肌白〜い、羨まし〜!」


 露那が教室に入った瞬間、そんな声が教室中を飛び交うも、それに関しては俺は特に何も思わない。

 と言うより、もう慣れている。

 露那と付き合ってた時は常にどこに行っても大体こんな感じだった。

 それより俺が今危険視しているのが、さっきも思ったけど恋人と誤解されないかということだ。


「おっはよ〜!天海あまみ〜!」


「あ、お…はよう」


 俺は隣に露那がいるため、少し口籠ってしまう。

 天海というのは俺の苗字のことで、今話しかけてきたのは俺に話しかけてきてくれる数少ない女子の秋ノ瀬だ。

 俺はこの学校に転校してきてからは極力女子と会話しないことを心がけてきていたが、秋ノ瀬とあと1人とだけは少しだけ会話もしている。

 とはいえ、秋ノ瀬に関してはほとんど向こうから話しかけてくれるため、俺から話しかけることはほとんどない。


「隣の女の子誰〜?」


 おそらくクラス中の人たちが気になっているであろうことを秋ノ瀬が代表して質問した。

 秋ノ瀬は活発な女子という印象で、クラスの中心的な人物だ。


「あ、それは……」


「奏くんっ?ちょっと良いかなっ?」


「…ん?」


 露那は何故か教室に入ったが、俺の腕を組んだまま教室から出て一度廊下に戻った。


「なんでせっかく教室に入ったのにまた出るんだよ…?」


「なんで、じゃないよ、私が散々言ってること忘れちゃったの?」


「言ってること…?」


「私以外の女の子と話さないでって、口を酸っぱくして今まで言ってきたよね?」


「それは俺と露那が恋人だった時の話で、今はもう関係無い」


 俺は昨日決めた通り、徹底してそこを崩さない。

 まさか露那が転校してくるとは思ってなかったけど、それでも俺の決意は変わらない、もうあんな生活はごめんなんだ。


「まだそんなこと言ってるの?いくら拗ねてるからって、他の女の子と関わろうとするなんて、笑って済まされることじゃないんだよ?」


「俺は露那のそういうところが……」


 俺が俺の考えを改めて伝えようとしたところで、学校中にチャイムの音が鳴り響いた。


「早く着席しないとまずい…!露那は今日から転校してくるんだから、廊下に居れば先生が誘導してくれるはずだからここで待っとけば良いからな」


「うんっ…!」


 俺はそう言い残し、急いで教室に戻り、自分の席に座る。


「…そういう優しいところも大好きだよ、奏くん…でも、許容できないこともあるから、それだけは…ね」

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