第5話ギフトを獲得しますか?
【ギフト名:剛力。50ポイント消費に付き、
【保有ポイント:1000→0】
【膂力値:5→25(剛力による補正値+20)】
「マジか、マジかよマジですか……」
浮かぶ薄く黒い板を前に、袈刃音は盛大に頭を抱えた。
結論から言って、三浦袈刃音は四メートルの高さまで
彼が筋力を望んだ時、ルールが発動し、眼前の薄く黒い板が現れたのだ。
そこにはこう書かれていた。
【プレイヤー・三浦袈刃音の要望を受諾。ポイントを消費し、ギフト・剛力を取得しますか? →はい/いいえ】
袈刃音がバールを得た時と同じ現象だった。
【剛力】による身体能力の向上がどれ程なのか分からなかった。
また、【ポイント】自体は今日ゾンビを殺した事と、長期間ゾンビに触られなかった事………そしてゾンビとなった自分と旭の両親を殺した事で千まで増えていた。
その為【ポイント】をあるだけ使い、筋力の向上を図ったのである。
が、やり過ぎた。
幾ら助走を付け全力で跳んだとはいえ、靴裏と地上との距離が四メートルを軽く超えたのだ。
最早、袈刃音は人間を辞めたも同然だった。右手に握ったバールも異様に軽く感じる上に、そこまで力を入れていないにも関わらず体に力が入り過ぎてしまう。
正直これでは日常生活にも影響が出て来るのは必至。
……もっとも、日常らしい日常はもう存在せず、あるのはリスキーでサバイバルな日々だけだ。
「って、そうじゃない。…今は余計な雑念は要らないんだ」
少年にとって、現在最優先事項は朝比奈旭を見つける事。
息を殺し、辺りを見渡す。
陽の光が入り込んでいるとはいえ、全体を照らす程ではなく、袈刃音のいるこの場所と違って奥の方は薄暗い。
そして、誰もいない、そう思いかけた矢先に――ゾンビを発見した。
唐突な事態に慣れたのか、袈刃音はあまり驚かなかった。
直ぐに本棚に背中を引っ付け身を隠す。
【剛力】を手に入れた今の袈刃音ならば、ゾンビなど容易く殺せる。数値だけで言えば以前の5倍になっているのだから。
しかし、最早敵はゾンビ達だけでなくなった現在、何があるか分からないし余計な時間も体力も食いたくない。
袈刃音は即座に移動を開始した。
「暗いな…」
ライフラインの途絶えた店内なら妥当な暗さで、その暗さはさっきまで動き回っていたショッピングモール内のどことも然して変わらない。
が、いざという時、ここの逃げ場は先程飛び越えた割れた窓だけ。今まで以上に慎重な動きを求められる袈刃音にとって、視界の悪さはかなりの障害だった。
そして、
「……っと、またゾンビ」
声を押さえ呟く袈刃音。
今度は三体。加えて、奥からその三体以外のゾンビの声らしきものが複数響いて来た。
「まさか、誰かがここにゾンビを閉じ込めたのか?」
もしくは、ここで籠城していた人間がゾンビ化したか……といった所か。
どちらにしろ、十体近く、あるいはそれ以上の数のゾンビがここにはいそうだった。
そんな事を考えている内に、既に全体の四分の一程度は探し終わったが何も見つからない。
「……読みが外れたか」
旭とはぐれ、既に一時間が経過しようとしていた。
不安や焦りから、探しにくいこの場所での旭の捜索は中断し、他の場所を当たってみようかと考え始めた袈刃音。
しかし、不意に、一瞬、微かに――誰かの声が奥から聞こえた。
「――ッ!落ち着け、慎重に行くぞ……!」
歩く、歩く、迅速に注意を周囲に払い歩みを進める。
――誰だ、誰がいるんだ……ッ?
期待に心臓の鼓動が早まるのを感じる。
――そこにいるのか、旭?
これ程もどかしい事はない。
今直ぐにでも走り出したい体が、心が、激しく
そして、旭の存在を発見し――呼吸が死んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます