第23話 復活と再燃

「ん……」


 カーテンから日が差し込んで目を覚ます。頭がやけにスッキリしている。こんなにゆっくりと眠れたのはいつぶりだろう。


「ん……?」


 手が動かない、と思ったら誰かに手を掴まれていた。掴んでいるのはもちろん、リリアだった。


「……」


 先ほど見た夢の内容を思い出す。夢だというのにはっきりと覚えていた。リリアに過去を知られたこと。本気で心配してくれたこと。遊んだこと。全て覚えていた。そして、起きて第一声は──。


「恥っずぅぅぅ……!」


 そう、恥ずかしい。女の子の前で泣いてしまったことや、マジな顔で感謝を述べたことが普通に恥ずかしかった。


「んぅ……」

「……っ」

「むにゃ……気持ちぃ……」


 リリアは手にすりすりと頬を押し付けてきた。柔らかい頬の感触がダイレクトに伝わる。


「猫かコイツは……」


 しかし、不思議と鬱陶しいと思わない。むしろ……むしろなんだろう、この気持ちは。


 いかん。このままでは。色々とよくない。リリアのよだれも垂れてきそうで怖い。ゆっくりと引き離そうと手を伸ばした時だった。


「た、拓巳さんっ!!!」


 ドン! ドン! ドンドンドン!!! 


「うおっ!?」


 借金取りでも来たのか、とんでもない力強さでドアを叩かれる。リリアがやってくれたのか、部屋には鍵がしてあったので押し入られることはなかったが、それも時間の問題だ。


「す、すみませんっ!!! 私が留守の間に、あぁ……! 私は管理人失格です……! ここを開けてください……! すぐに楽にしてあげますから……!」


 声の主は楓さんだった。なるほど、俺が倒れたと聞いて駆けつけてくれたのか。


「か、楓さん落ち着いて──」

「落ち着いていられますか!? いいえ、いられませんっ!!!」

「反語!?」

「私が面倒を見なかったばかりに……! 私が、私が救わないとぉ……!」

「うわぁ!? 楓さん! それは医療系の資格持ってないとヤバいやつですってぇ! 恭子ちゃんもリリイちゃんも見てないで止めたげて!」

「今日のカエデ……怖い……」

「まぁ……今回はあいつも痛い目見た方がいいんじゃない?」


 しかし……ドア開けたらヤバいんじゃないかこれ。嫌な予感しかしない。


 寝たふりで誤魔化すか、そう考えたが、まずいことに気がついた。リリアと2人、一緒に寝ていたことが今の楓さんに知られればもっと事態は深刻になる気がする。


「……リリア、起きてくれ」

「んぅ……や」

「ぐっ……」


 くそっ……なんだこの小動物みたいに可愛らしい生き物は……! 見ていると心が破裂するんじゃないかって思うくらい胸が高鳴っている。


「今……今開けますからねぇ……!」


 やばい。こっちはこっちで恐怖心で胸が張り裂けそうだ。


 結局、俺はリリアの寝顔に負けて楓さんを説得する方針をとった。


「か、楓さ〜ん」

「拓巳さん!? 大丈夫なんですかっ!?」

「は、はい。えっと……ご心配おかけしました。もう大丈夫です」

「そ、そうですか? では居間で待っていますので」

「は〜い」


 良かった。結構あっさりと引いてくれた。


「拓巳……」

「あ、聖也か。すまん、心配かけた。もう大丈夫だ」

「そっか。それは良かった。それはそうと……覚悟して降りてきた方がいいかも」

「え」


「おにーさん死んじゃうの?」

「まぁ死ぬような思いはするかもね」

「え? え?」


 意味深なことを言い残し、聖也たちは去って行った。


「は、はは……。全く……大袈裟な奴らだな……はは……」


 きっと楓さんが心配してご飯作りすぎた、とかそんなことだろう。


 そう思っていたのがつい先程までの俺であった。



「こ、これは……」


 居間に降りていくと、確かに俺の予想通り、テーブルにこれでもかと料理は並べられていた。問題はそのメニューだ。


 草みたいなやつ。見た事のない生き物の丸焼き。変な木の実。初めて見る匂いのスープ。とにかく奇想天外の料理のオンパレードだった。


「なんだこれは……」

「拓巳さん。お元気になったようで何よりです」


 後ろにはニコニコとした顔をした楓さんがいた。怖い。


「か、楓さん……これは一体……」

「拓巳さん、ここ最近はろくに栄養をとってないみたいなので、栄養を取れるものを各地から各国、隅々まで取り寄せました」


「各地から各国、隅々……?」


 なにその日本語の使い方。漫画家だけど知らないよ俺。


「全ては拓巳さんに健康な生活を送っていただくため。さ、召し上がれ」

「う、うわー。何から食べようか迷っちゃうなー……」


 どれが一番マシなんだろうと探してみる。が、どれも見た事ない料理なので何の比較にもならない。


「ちょ、ちょっとトイレに──」

「逃しません」


 は、速いっ……!? 一瞬で肩を掴まれて座らされてしまった。これは覚悟を決めるしかなさそうだ。


「い、いただきま──」

「た、たたた大変です! た、タクミさんが! タクミさんが!」


 こ、この声はリリアだ。俺を助けてくれる救世主メシアが現れてくれたぞ!


「リリアちゃん、今いいところだから静かに──」

「か、カエデさん! タクミさんがいないんです! 昨日一緒に寝て、一緒に同じ夢まで見て、それなのに、朝起きたらいなくて……!」

「一緒に寝て……?」


 あ、こいつ悪魔だったわ。


「おかしいですねぇ。ウチは基本的には独身寮のはずなんですけど……ねぇ、拓巳さん」

「あ、タクミさぁん!」

「むぐっ!?」


 急に抱きつかれ、顔を胸の間に埋められてしまう。


「うわああああああああああああああ! よかったですううう! どこかへ遠くへ行っちゃったかと思いましたあああ!」


 このままでは世界一幸せな窒息死が待っている。タップしてホールドを解いてもらう。


「お、俺は大丈夫だから」

「何が大丈夫なんです? ねぇ、拓巳さん」

「あ、えっとぉ……」


 この後、般若のような顔をした楓さんに説得をするのだった。



「はぁ……長かった」


 楓さんからの説教をたっぷりと味わって疲れた。しかし、体調は良好そのもの。数日前の体の気だるさや頭痛などがすっかり消えていた。


「あ、お帰りなさい、拓巳さん」


 部屋に戻るとリリアが正座をして待っていた。一瞬部屋を間違えたかと思った。それぐらいナチュラルにいた。


「……おう、ただいま」

「えへへ。し、新婚さんみたい、ですね」


 ぐふぉっ! な、なんだ今の顔は……! 頬を染めてモジモジとする姿に目がやられてしまった。


「もう本当に体調は大丈夫ですか?」

「あ、あぁ。良くなったよ。いっぱい寝たしな」

「本当に本当ですか?」


 スッとリリアは俺のおでこに手を当ててくる。熱を測っているのだろう。普通に恥ずかしい。


「うん、平熱みたいですし、大丈夫そうですね」

「……あー、その、なんだ……ありがとな、助けてくれて」

「へ? い、いえ。私は、当然のことをしたまでで……」


 2人してモジモジと照れてしまう。くそっ、何だこの雰囲気は……! 2人きりなんて今までもあっただろうがっ!


「おにー、さんっ!」

「うおっ!?」


 後ろからリリアに抱きつかれる。


「急に抱きつくな、びっくりするだろ」

「くんかくんか……んー、いつものおにーさんの匂いだぁ」

「急に嗅ぐなよ……」

「えー、いいじゃーん」

「……まぁ、リリイにも心配かけたな。反省してる」

「そうだよ? アタシ、おにーさんに冷たい態度取られてショックだったなぁ」


 あまり記憶にないが、確かにリリアやリリイに対しても冷たい態度を取っていた、と思う。


「悪かったって」

「しょうがないにゃあ……いいよ♡ ちゅっ♡」


 よかった、許された。そう思った次の瞬間、頬に柔らかな感触が伝わってくる。

一瞬何をされたのかわからなかった。脳が2~3秒フリーズしてしまった。


「なっ……!」

「お、おまっ……!」

「これで許したげるね♡」


 ペロリと舌なめずりをするリリイ。


「〜〜〜っ! リリイ〜〜〜!」

「きゃはは! 逃げろ〜〜〜!」

「待ちなさいっ! 無闇に人を誘惑したらいけないとあれほど言ったのにー!」


 ドタバタと部屋を出て行った淫魔2人。いつもの日常が戻ってきたようで良かった。


「あ、タクミさんは後でお話がありますから」

「あ、はい」


 ジト目でリリアが見てくる。訂正、あまりよくないかもしれない。



「はい……はい。すみません、ご迷惑をおかけしました」


 俺は中山さんに電話をしていた。謝罪しているのは、投稿した漫画の件についてだ。


 いい感じの雰囲気になっている男女の仲。そこに現れるチャラそうな男の影。女の子がチャラ男に手を引かれ、どこかへ行ってしまうシーンは誰がどう見ても純愛漫画には捉えられないだろう。


「もう投稿しちゃったもんはしょうがないですし。先生もどこかお疲れみたいでしたので、忘れましょう、その件は」


 どうやら声からも俺に生気が無かったことが伝わっていたらしい。とはいえ、読者に疲れてたから胸糞展開描いちゃいました、なんて言い訳は通用しない。


「それじゃ、今回の作品はお蔵入りってことで」

「いや、描きます」

「え? いやいや……あの展開からは厳しいんじゃないですか? 読者も離れてるっぽいですし」


 確かに、中山さんの言う通り、今まで読んでくれてた人は呆れ返っていた。しかし、このままでは俺の気が済まない。女の子が悲しい表情のまま終わる物語なんて、あってはならない。俺のポリシーに反する。


「今から24時間以内に、続きを投稿します」

「……」

「それを投稿して反響が芳しくなければ、今回の作品からは手を引いて、本業に戻ります。もう一度、チャンスをくれませんか?」


 数秒間の沈黙の後、はぁというため息が聞こえた。やはりダメか、そう思ったが──。


「しょーがないですね、分かりました。もう一度だけ、待たせてもらいます」

「本当ですか!?」

「その代わり、ハードル上げさせてもらいますからね」

「と、言うと……?」

「前話したじゃないですか。お偉いさんが先生の漫画気に入ってるって。いや、今は気に入ってた、ですけど。その人に言っておきます。あの展開からめっちゃ面白くなるんでって」

「な、何でそんなことを……?」

「そりゃあ、ここでドカーンともう一発話題になれば、お偉いさんも大層気に入って爆売れの道まっしぐらになるからですよ!」

「……それ、もしミスったら」

「もう、純愛路線の道には戻れないでしょうね。死ぬまで一生エロ漫画を描いていただきます」


 うーむ、それは即ち一般系の漫画界からは追放されるということかな? 一生エロ? できるか、俺に? いや、ネタ切れ起こして何も描けなくなったりとか……あ、やばい、急にお腹痛くなってきた。


 ……やるしかない。自分のためにも、読者のためにも。何より、ここまで付き合ってくれたリリアのためにも。


「……やります!」

「よし、ならこっちも成人誌の掲載枠を先回りして取っておきますね」

「中山さん? 俺が失敗する前提ですか? ねぇ中山さん?」


 中山さんは逃げるように電話を切った。さて、タイムリミットは刻一刻と迫っている。早急に取り掛からねば……!



「というわけで、力を貸してください」


 事の成り行きを居間にいるリリアに説明し、プライドを捨てて頭を下げた。今回のような短期間の納期では俺一人では絶対に思い付かないと考え、助けを求めたのだ。


「拓巳……18禁でも僕は変わらず応援するから」

「お疲れ様。成人誌界隈で元気でね」

「お前ら……」


 居間でそのまま説明したのが失敗だったか。聖也と恭子にまで話を聞かれ、早々に別れを告げられてしまった。


「わ、私でよければ協力します! いえ、させてください!」

「リリア……」


 あぁ、俺の味方はリリアだけだ。


「それじゃあ、えっと、成人漫画の展開について、ですよね。え、えっちなシチュエーションでしたよね? 淫魔な私が思うにですね……」


「話聞いてた? 一般向けの純愛描くんだって。お前もそっち側か?」


 ダメだ。味方ゼロ。諦めて一人で描くか。


「でも、あの展開からどうやって胸糞展開を回避するのさ」

「ぐぬぬ……」


 確かに、胸糞展開からみんな幸せハピハピハッピーの物語にするには雰囲気が違いすぎる。


「もういっそのことビッチにしちゃえば?」

「却下だ。俺の描く女の子にビッチはあってはならない」

「きもい」

「それに、今回描いてるのは純真無垢の男子高校生とビッチそうに見えてピュアな女子高生って設定なんだぞ。本当にビッチにしてどうすんだ」

「なんだ、ちゃんと頭は回ってるのね」


 馬鹿にしやがって。それぐらいちゃんと考えてますぅ。


「それじゃ、私は自分の仕事に戻るから。せいぜい足掻いて見せてね」

「僕も仕事の途中だし、戻るよ。それに、ネタバレは嫌だし。楽しみに待ってるね」

「あぁ。期待しててくれ」


 2人は部屋に戻っていった。なんやかんや俺とリリアの描く漫画を楽しみにしてくれているらしい。


 しかしどうしたものか。ゆっくり考えてる時間はない。漫画の素人にも意見を求めるぐらいに逼迫している状況なのだから。


「何かないか……幸せな展開に持っていける何かが……」

「ほ、本当は強引に連れてかれて嫌じゃ無かった、とかならどうでしょうか?」

「え」


 なんだろう、脳が壊れた音がした気がするが。


「そうか……リリアはこの男みたいに強引に引っ張っていくような男の方が……」

「わ、私は嫌ですっ!!!」

「こ、声でかっ。わ、分かったって」


 ちょっと脳が回復した気がした。


「くそ、何で俺はこんなチャラくてウザそうな奴を描いてしまったんだ……」


 しかも顔も良くしている。平凡な主人公が勝つ未来が見えてこない。間違いなく作中最強の敵である。


「あ、たくみっちとリリアちゃ〜ん。なんかお久しぶり〜」

「あれ、由梨さん。今日は休みでしたか」

「こ、こんにちは」

「そうそう。あ、というかたくみっち大丈夫だった? なんか大変だったって聞いたけど」


 そういえば俺が病んでいる時は由梨さんには出会わなかった。ちょうど仕事の時間と被っていたこともあったのだろう。


「ごめんねぇ。私何も知らなくて」

「いや、いいですよ。むしろあの時の自分は知られたくないですし」

「お詫びに、ウチに来た時はサービスしてあげるから、ね?」


 胸を寄せあげてこちらを誘惑してくる。由梨さんの働いているバーではそんなオプションがあっただろうか……。


 しかし、もはやこれぐらいの誘惑には響かない。本物の淫魔も身近にいることだし。


「いや、本当にいいですって」

「んもう、照れちゃって。あんまり謙虚すぎてもモテないゾ?」


 腕に絡みついてくる由梨さん。胸の柔らかい谷間に俺の腕が取り込まれてしまった。そして確信した。この人絶対酔ってるわ、と。


「て、照れてないんで。後近いっす、ハイ」

「あっはっ! 顔真っ赤! か、わ、い、い〜」

「ち、近すぎですっ! 離れてください!」

「あんっ」


 リリアに救出されたおかげで俺の腕を誘惑から引き剥がすことができた。


「タクミさんも、鼻の下が伸びすぎですっ!」

「の、伸ばしてないやい!」


 伸びてないとは思うが、念の為鼻の下を隠し、伸びてないことを確認する。うん、大丈夫だ。


「もう……漫画を考える時間は少ないんですよね? なら性欲に負けてる場合じゃないですよっ!」


 ごもっともだが、淫魔ですよねあなた。今の発言は淫魔的にどうなのだろうか。


「あ、たくみっちが描いてる漫画のこと? SNSにあげてるやつ?」

「そうですけど。え、由梨さんも読んでるんですか?」

「うん。この前たまたま見てね。最新話、すごいバズってるじゃん。やるねーたくみっち」

「あはは……由梨さん、今その発言は最高に俺を煽ってますよ?」

「冗談冗談。にしてもギャルっぽい見た目の子にはこういう男の影は付き物だよねぇ、高校の時の同級生とかほとんどそんな感じだったし」


 やはりそうか。恋愛経験豊富であろう由梨さんがそういうのだから、やはりオタクに優しいギャルなど存在しないということか。


「あ、でもさぁ──」



 その後、由梨さんから話されたエピソードは、俺の脳内に電流を走らせた。


「ゆ、由梨さん……それだッ!!!」

「えっ!? な、何!?」

「どうして気が付かなかったんだ……。それしかない、それ以外考えられない……!由梨さん……! まじでありがとう! 由梨さんには感謝してもしきれないくらいだ!」

「そ、そう? じゃあこの後特大サービスも付けちゃおっかなーなんて──」

「よしリリア! 後は部屋に戻って仕上げるぞ!」

「はいっ!」

「おい」


 由梨さんが後ろで冷たい視線を向けてくるが、今は漫画を仕上げることが優先だ……!



「よし……ストーリ構成は完璧だ……! 後は、描くのみ!」

「が、頑張ってくださいっ! タクミさん!」

「よし! ……ところでその格好は?」


 いつの間に着替えたのやら、丈の短めなスカートにポンポンを持つその姿はチアガールそのものだった。髪型も後ろで髪を結んでちょこんとポニーテールにしており、いつもと違う可愛さを引き出していた。


「こ、これは……リリイがこれを着て応援すれば男の人は元気が出るって……」


 リリイめ……悔しいが的を射ている。モジモジと恥じらうたびにスカートが揺れ、見えそうで見えない領域が輝いて見えた。逆に集中できない。


 しかし、ここで止めてくれなんて言ってリリアの気持ちを蔑ろにしたくもない。ここは俺の腕の見せ所だ。


「リリア! 応援を頼む! その衣装は応援に特化した衣装だ! だから応援してくれ!」

「わ、わかりましたっ!」


 よし、後は集中して漫画を仕上げれば──


「がんばれ♡がんばれ♡タクミさんっ♡。がんばれ♡がんばれ♡タクミさんっ♡」


 ぴょんぴょんと跳ねて応援が聞こえるたびにチラチラとスカートは捲れ、ぶるんぶるんとおっぱいが揺れている。これで集中できる男がいるだろうか、いやいない(反語)。


 自分の欲望に抗いながら、俺はなんとか漫画を描き進めるのだった。



 オタクに優しいギャルは存在していた

『あの……さ! 俺、何かできることないかな』

『へ?』

『この前、さ。見ちゃったんだ。チャラそうな男の人に連れてかれるの……』

『あ……』

『俺、キミの力になりたいんだ! 困ってるなら、俺にできることならなんでも……!』

『ぷっ、あはは!』

『え……?』

『あー、はっず。見られてたのマジ恥ずいわ。あれ、私のお兄ちゃんだから』

『え、お兄さん!?』

『そ、お兄ちゃん。証拠に……ほら、家族写真』

『ほ、本当だ……』

『居酒屋でバイトしてるお兄ちゃんが親と喧嘩しちゃってさ……家出てくんだ、とか言って。もうめっちゃ説得して涙とか出ちゃって』

『そ、そうだったんだ……。俺、早とちりしちゃって……』

『……安心、した?』

『えっ……う、うん』

『えへへっ……よかった。今度紹介するねっ』

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