2.工事
粒はまだ公園にいた。子供が作った大きな山はあれから1週間ほど放置され、途中で子供の両親が、山を目の前に笑顔で子供を褒める時があったが、山は崩されることなく1週間放置された。
しかし粒にとってはこの時間もほぼ一瞬のような時間で、また新たに人の手が加わるのは、その月の末の時だった。
それは四十代中年の薄緑色の作業服を来た男だった。
男は子供が持っていたようなシャベルより、数倍にも大きいスコップもって現れると、勢いよく容赦なくスコップの刃を山に突き刺す。
「よいっ……しょっと」
男は山にスコップの刃を半分より少し深めまで突き刺すと、残りのはみ出た刃の根元に足を引っ掛け、梃子の原理で山を一気に掘り起こす。
山は一撃にして形を変え、麓で固められた粒に雨のように砂が降り注ぐ。
日にちが経って冷え固められた砂の山は、雨となっても非常に重く、粒は一切の抵抗も出来ずに、砂の深い所まで押し込められた。
しかしそれで安心するのは束の間。
またしても男はスコップで砂を掘り起こし、それを何度も続けては、スコップの側面を使って砂面を撫でる。
この時に粒は男は公園の砂場を慣らしているのだと理解した。
そうして何度も撫でられること十分。男の作業は意外と雑ということもあり、運が良いのか悪いのか、粒は砂場の外側に追いやられた。
「よし、あとはあれか……」
男は作業服の袖で額の汗を拭くと、一言独り言を呟いてから遠く消えていった。
ここで粒は焦る。今まで長年公園の砂場に居続けたが、いざ外に出されれば人間の手に触れられる確率は大きく下がると察することが出来る。
つまりそれは粒にとっては何も出来ずに動かされることもない大いなる暇が出来てしまうことなのだ。
なにか突風や竜巻でも来ないだろうかと考えるが、確かに起こりはするものの、砂場の砂が一気に巻き上げられることは滅多に起こる事はなく、そのまま半年が過ぎた。
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そうして長くも短くもあるその時間後に来たのは、白い作業服と黒いズボン、頭には黄色のヘルメットを被った複数の男が公園に入ってきた。
男たちの背後には多数の物々しい機械や重機が並び、公園の砂場の外側で止まっていた粒は彼らが何者かをすぐに理解した。
そう、工事作業員である。
ある程度集まった作業員達は、遠くで何か話していると、一斉に体操を始め、終わると遂に作業を始める。
最初は公園の遊具の解体。
粒は確かに彼らが工事作業員だと分かったは良いものの、彼らが行なっていることに関しては理解出来なかった。
この半年間、数は少なかったが確かに度々子供や、仕事帰りのサラリーマンが煙草を吸いながらブランコに乗りに来るなど、人の通りはあった。
なのに彼らはこの公園を破壊しているのだ。
「やめろ……やめろ!」
粒は叫ぶ。しかしその声は決して彼らに伝わることは無い。
彼らは粒の叫びなど知らずに、黙々と撤去作業を続けるのだった。
その工事は始まり、終わるのは二か月ほどだった。
粒は真っ黒な光沢を持つ石へと変化した。
星になるまで Leiren Storathijs @LeirenStorathijs
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