星になるまで

Leiren Storathijs

1.砂の山

 それはまだ砂粒だった。小石とも呼べない小さな。人間が親指と人差し指で摘めるような小ささ。

 大地の土と砂の中の無数にあるその一粒に、唯一人間のような意思があった。


「あー暇だなー」


 この砂粒は現在、とある人間の公園の砂場にいた。当然砂粒は自分の力で動くことは出来ず、声を出すことも出来ない。

 勿論、いくら念じても通じることは無いため、一粒は何かを思い耽ることしか出来ない。


 ただし、暇というものは最早致し方がない。動くことも出来なければ、話すことも出来なければ、暇つぶしも出来ない。

 今のこの砂粒にとって唯一の暇つぶしになる物とは、犬の小便を掛けられるか、人間の子どもの手によって山を作られることであった。


 そんなある日のことであった。

 その日の朝、一粒は全身に若干の違和感を感じていた。


「あれ……体が重い……」


 身体が重い。砂粒に『身体』とよべる物はないが、この砂粒にとっては、一粒のこれが『身体』になる。

 そんな身体がいつもより重くなっていたことに気がついた。


 正確に言えば砂粒から粒へと変化していたのだ。何がきっかけかは分からないが、砂粒はほんの少しだけ大きさを変えていた。

 ただ砂粒から粒になったところで、摘める程度の大きさだと言うことは変わらない。


⭔⭔⭔⭔⭔⭔


 そんな異変に気が付いて数時間後、公園に一人の子供がやってきた。


「よーし、今日は昨日より大きい山作るぞー!」


 公園に砂場にて山を作りにきた子供だった。この子供はよく山作りをしていて、粒はそれに混ざっていた。

 粒の位置は、小さな長方形の砂場において中央ではなく四隅の端辺りにあり、この子供は中央辺りの砂をかき集めて山を作る。


 これは粒が週に二、三回経験していることで、運が無ければ子供が作る山の一部になることはできないのだ。

 別に子供の作る山の一部になることに特別な目的は無いが、その一瞬だけは人間の手によって粒の大移動ができる瞬間なのだ。

 つまりそれこそ粒にとっての最も快適な暇つぶしとなる。


 子供は最初は砂だらけになった手で砂をかき集め、着々と山を高く作り上げていたが、今日という今日は気合が入っているのか、小さなシャベルを持ってきていた。

 今や山の高さは凡そ百二十センチの子供がしゃがみ込んで、身長の三分の一に達していた。


 子供にとっては今まで作り上げた山より相当高く、子供は山作りに興奮していた。


「へっへっへー、でっけー」


 一体いつまで大きく作るつもりなのだろうか。未だにかき集められていない粒からは、とてつもなく空高い山に見えた。

 子供がいつか粒を掻き集めたとき、粒はこの山のどの部分に入るのか。

 粒は少し楽しみになっていた。


 そうして山の高さが子供の半分に達した所で、遂に粒はがかき集められる時が来た。

 山は子供が見てもかなり高く、下の部分は上の砂の重さによってしっかりと固められて動かなくなっているだろう。

 子供の表情は満足気で、最後の仕上げに取り掛かろうとしていた。


「よし、あとはこうして……」


 さぁ来い。私をあの山の頂点へと導け。


 そう願う粒に、子供のシャベルではなく、手でもない。靴が迫ってきた。

 靴では登れないだろう。焦る粒。まさかどうするつもりなのか。


 子供は粒を靴で踏みつけると、勢いよく山の方へ足をスライドさせる。

 粒はその勢いをそのままに、他の砂に埋もれるようにして砂を波を形成し、山の麓に勢い良く衝突する。


 これにて子供が作る山の作りの仕上げが完了した。粒の望みは叶えられなかったが、子供は最後の粒を山の麓にぶつけることで、風や揺れで崩れないように固定したのだった。


「もう少し拾われるのが早ければ……」


 粒は悪運に絶望した。

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