第2話
そして十月十日して、ルミエルは出産した。
その頃には、彼女の妊娠に触発されたのか、長男の妻がやはり妊娠したり、ルミエルの下の妹の縁談が決まったりとかなかなか故国の方では忙しそうだった。
私達は様子をうかがう手紙を義実家の執事から逐一受け取っていたが、その一方で、ルミエルからの無闇に長い手紙が送られてくるようになった。
無論彼宛である。
薄いレターペーパーにびっしりと。
だが書いてあることは基本的にいつも同じだった。
生まれた息子のどこそこがお兄様にそっくりです。
将来が有望です。
だからそんな仕事早く切り上げて、戻ってきてください。
私のもとに。
「何だかなあ」
とエドワードは自分で読みたくない、とばかりに私に音読させて毎度毎度呆れている。
「ベンジャミンの視点だと違うんだけどなあ」
そう。
執事のベンジャミンもその子供のことを逐一観察しては連絡してくれる。
彼が子供の頃から既に家を切り盛りしてくれている執事は、きょうだい達の幼い頃の目撃者でもあった。
そんなある日、そのベンジャミンが送ってきた手紙を見て、夫は眉を動かした。
「なるほど…… 可能性はあるな」
何? と私は訊ねた。
「読んでみるといい」
執事からの手紙はこうだった。
毎日毎日目に見えて大きくなってくる若君はかつての皆様の様です。
特にジョン様の面影が次第に濃くなってきました……
「ジョン?」
うん、と彼はうなづいた。
「彼奴は彼奴でシスコンでね。ルミエルがいつかは嫁に行ってしまうことをいつも嘆いてた」
「だけど、だからってそういうことがあっさりできるの? 子供が欲しいからって」
「さてそこだ」
夫は指を立てた。
「もしかしたら、ルミエルは本気で僕がそうしてきたんだ、と思ってたのかもしれない」
「いやいやいやそれは無理でしょう、貴方とジョンはずいぶん違うじゃない。顔も体つきも」
「でも声はそっくりなんだ」
あ、と私は口を思わず開いた。
「確かに…… 私、貴方が呼んでいると思って、なあにエド、って振り向いたらジョンだったことあったわ……」
「うん、で、体型って淑女たる妹としては、そんなにまじまじと見ていたことかな? アガサ、君は僕と結婚する前、その辺りをしっかり見ていた?」
「比較にならないわよ。だいたい私はこの通り目が悪くて、外見よりも、話の内容が面白いか、ということが一番だったんだから。私を基準にするんじゃありませーん」
私は夫の頭をぱたぱたとはたいた。
ごめんごめん、と彼は笑って避ける。
「……でも確かに、普通の淑女は殿方の身体をまじまじと見るものではありません、とはいうわね。うーん…… あの子はどうだったのかしら」
「まあともかく、任期が終わったら全てが判るさ」
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