第4話 勇者の力は健在、美少女の学級委員長
有栖紗羅花(ありすさらか)が去り、ようやく騒ぎが落ち着いたところで俺とれなは帰ろうとした。しかし、俺はれなに呼び止められた。
「凛!どういう事なのか全部説明してよ!」
説明しろと言われても。別の世界で俺が勇者をやっていた事、さっきの有栖紗羅花が宿敵の魔王だった、そして勇者だった俺が転生して上条凛太郎の身体に乗り移ってしまった、なんて言っても納得してくれるだろうか。
――――どう考えても無理があるだろ。
しかし説明しないことには何も始まらないし。
俺は駄目で元元、れなに全てを打ち明けた。
「さすがに無理があるでしょ」
――――ですよね。
「ってことはあんた、記憶喪失だけど記憶喪失じゃないみたいな感じなの?」
「そうなのかな、勇者としての記憶はあって凜太郎としての記憶は一切ない」
「少しは蓮としての記憶も残しておきなさいよ!このばか!」
それを俺に言われても困るのだが。俺だって好きでこの身体に転生したわけじゃないし。俺の魂を蓮の身体にちゃんと上書き保存しなかった神様が悪い。
「大体は理解して貰えたかな?」
「理解は出来たわ。でも信じられないわ。あんたが蓮なのに蓮じゃないだなんて。そもそも、あんたは何のためにこっちの世界に来たわけ?」
「それが分かっているなら俺だって苦労してないさ。魔王に殺されて、目覚めてみたらいきなり病院のベッドの上さ。何が何だかさっぱり」
俺は死んだ時に神様に魔王に勝てる強い力が欲しいと願った。だが実際に手に入れたのは現実世界の普通の男子高校生の身体。そして、れなの話によれば弱くて内気な男。俺が求めていたものとは真逆。神様は俺にどうしろというのだ。
……だが、さっきの有栖紗羅花の拳。あれは普通の人間では到底防ぎ切れない衝撃だった。間違いなく当たっていればれなの腕は吹き飛んでいた。
――――まさか。
「れな、ちょっと俺の前に立ってくれ。試したいことがある」
「早く帰ろうよ~お腹空いた~」
「すぐ終わるから頼む」
帰りたくていじけ始めたれなを渋々前に立たせ、俺は拳を構えた。
俺の考えが間違っていなければ必ず成功する。
「痛くしないでよ。てか、あんたのへなちょこパンチじゃ無理か」
「それは!どうかな!」
俺はれなの横顔に向けて拳を渾身の一撃で突き出した。俺の拳は音速を超えるスピードでれなの横顔をすり抜け、辺り一帯に大きなつむじ風を起こした。
想定外の拳にれなの顔は青ざめ、身体を小刻みに震わせて恐怖のあまり膝から崩れ落ちてしまった。
「……まじか。これは俺があっちの世界で鍛え上げた力そのもの。今のパンチで全身に力が伝わっていくのが感じる。だから骨折していても普通に歩けていたし何の支障もなかったのか。これは凄い発見だ!」
俺は自分の身体の発見に驚きと嬉しさを隠しきれずにその場で両手を上げガッツポーズしてしまった。だってそうだろ!こっちの世界でも勇者の力が使える。つまり魔力の無い魔王なんて眼中にないってことさ!
「――あの、一人で勝手に盛り上がっているところ。大変恐縮なんですけど、私の事どうするおつもりですか?」
「あ、ごめんごめん。今どうにかするから待ってて」
またしても俺はれなを置いてけぼりにしてしまった。今にも怒りが爆発しそうな表情でこちらを威圧してくるれなを俺はおんぶして家まで送ることにした。
「ちょ、凛!あんた何してんのよ!下ろしなさいよ!」
「そんな震えた脚でどうやって歩くんだよ。さっさと家教えろ。送るから」
「~~~~~~!今回だけだからね!後は絶対やらせないからね!分かった!?」
「はいはい、暴れると歩きづらいんで大人しくしててください」
『なによ……ちょっとつよくなったからって……かっこつけちゃって……』
れなが小さな声で何か呟いたのが聞こえた。
「れな~なんか言ったか~?」
「なんも言ってないわよ!ばか!さっさと歩きなさい!」
こっそりと後ろを振り向くと顔を真っ赤にしながらも安心そうに俺の背中にもたれかかるれなの姿があった。この時、俺は「凜太郎」という人間がれなの中で少し強い人間に変化したんだなと実感した。
*
次の日の昼休み、俺は今日も窓の外を眺めていた。
昨日の有栖紗羅花との出会い以降、俺は次会った時どんな対処法を取るか考えていた。しかし、この世界において「殺す」ことは犯罪に値して警察という組織に捕まってしまうらしい。前の世界でも似たような組織はあったが俺は人ではなく魔物を殺していたので別に関係なかった。
「――――この世界でも魔王を殺せないなんて困ったな」
「何が困ったんですか!?」
「うわぁぁぁ!びっくりした!てか、あんた誰?」
「凜太郎くん!そこまで驚かなくてもいいじゃないですか!私はこのクラスの学級委員長の七瀬白雪(ななせしらゆき)です!」
七瀬白雪(ななせしらゆき)。成績優秀でスポーツ万能の学級委員長。雪を連想させるような白いストレートの髪に真っ白で艶のある肌、そして引き寄せられてしまいそうになるスカイブルーの瞳、これは超が付くほどの美少女だろう。
こんな事、れなの前で言ったら何されるか分かったもんじゃないが、それくらいにこの七瀬白雪は美しいのだ。
「そんな学級委員長さんが俺に何の用だ?」
「私の呼び方は『白雪(しらゆき)』でいいですよ?」
「そうか。それで白雪は俺に何の用なんだ?」
(やった!蓮くんに名前で呼ばせることに成功した!)
「ん?白雪?なんか言ったか?」
「いえ!別になんでもないですよ!」
(また呼ばれちゃったわ!超恥ずかしい!)
「で、何の用なんだ?手短にしてくれ、俺は一人になりたいんだ」
「蓮くんが困ったなって言ったのが聞こえたから学級委員長として何か協力出来ることはないかなと思って来てみたの」
「無い、帰れ」
「即答!?凜太郎くん……それは……いくら何でも……傷つくよ」
白雪が悲痛の表情を浮かべ教室の床に倒れ込んでしまった。その目には涙があった。いや、そもそもそこまで泣くほどのことなのか。
「お、おい、白雪?」
教室を見渡すと全員が俺の方を見ていた。明らかに俺が白雪を傷つけた雰囲気が漂っていた。学級委員長を傷つけたなんてクラス中に浸透したら更に俺の居場所がなくなってしまう。
魔物の退治はいくらでもやったが女性の扱いなんて殆ど習ってないしな、俺が向こうの世界で接したことある女性ってエーヴェル位しかいないだろ。
とりあえず、この場を収めるには白雪に話を聞いてもらう他ない。
「白雪、話してやるから。今日二人っきりで話せる場所ないか?」
「二人っきり!?もちろん、いいよ!どっかファミレスとかにしようか!」
「ファミレス?まあ二人で話せる場所ならどこでも」
「じゃあ決まりね!今日の放課後よろしく!」
俺はファミレスというものがどんな物なのかは知らないが、自分の席へ戻って行く白雪の様子を見る限りではきっと楽しい所なのだろう。なんせ白雪の目がキラキラ輝いていたからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます