第2話 幼馴染の彼女、魔王との再会

 俺は自分の家に着いた。二階建てという時点であっちの世界の俺の家よりも立派な家だった。


「凛太郎の部屋は二階ね。脚折れてるから下にいてもいいけど」


「いや、しばらく考え事するから自分の部屋にいる」


 俺は自分の部屋に入ったが、部屋を見ると見たことないものばかりだった。

 まずこの世界が分からない。それが分かるものがこの部屋にあればいいのだが。

 

 調べて分かったことはたった一つだけ。

 俺という存在が地球という惑星の日本という国にいること。

 どうやら死んだ俺の魂はどういうことかこっちの世界の男性の肉体に乗り移ったらしい。


 困ったのはこれからだ。俺はこっちの世界の事など何も知らない。

 ある程度の知識を身に付けなければならないだろう。

 しかし、俺はその知識をどうやって身に付ければいいんだ?

 読んでいた本を片手に俺は「どうにかなるか」と呟きベッドに横になった。


「凛太郎、明日からその身体で学校に行くつもり?」


 夕食の最中、母親が聞いてきた。


「学校?なにそれ?」


「勉強するところよ」


「丁度良いじゃん!俺勉強したかったんだよ!行く!」


「でも……その身体じゃ……」


「大丈夫!大丈夫!」


 父親が母親の肩を軽く叩き、首を横に振った。


「……分かったわ。明日の朝は私が送って行くわ。学校に事情も説明しないと行けないし」


 学校というものが一体どういうところなのか、想像しただけで俺はワクワクが止まらなかった。


        *


 そして次の日、俺は母親と一緒に学校に来た。

 

 先生と一緒に俺は教室に入った。俺が入った瞬間、教室が大きくざわついた。

 そして先生は俺についての説明を始めた。


「えー、ご存じの人が多いと思いますが、上条凛太郎君はこの前事故に遇いました。命に別状はなく骨折で済んだそうです。……ですが、一つ大きな問題があります」


「問題ってなんですか~?」


 一人の男子生徒が先生に訊ねた。


「上条凛太郎君は事故の影響で記憶喪失になりました」


「……」


 教室が一気に静まり返った。

 俺も何か喋らないとまずいかなと思い話し始めた。


「えっとね、俺マジで何も覚えてないし何も知らないので色々と教えてくれたら助かりまーす。よろしく」


「……」


 しばらくこの不穏な状況が続きそうな予感がした。


 俺の席は窓際の一番奥の席、誰も話しかけてこないので黙って外を眺めていた。

 学校って楽しいところなのかと思ったのにそうでもないな。早く帰りたい。

 いや別に帰ってもいいか。どうせこんな身体だし誰も文句言わないだろ。


「凛太郎!凛はいる!?」


 教室のドアの向こうから俺の名前を呼ぶ女の子の声がした。

 その子は俺を見つけると一直線にこちらに向かってきた。

 金髪のストレートロングに綺麗に整った顔に淡いピンクの瞳、そして胸元を大きく開けて着崩したワイシャツに周りの女子よりも明らかに短いスカート。

 昨日たまたま調べたら見つけたな、こういう子の事なんていうんだっけ。

 あ、そうだ。確か「ギャル」だ。


「あんた怪我大丈夫なの!?そんな包帯巻いた腕と脚で!」


「……あの、どちらさまで?」


「はあ?あんた何言ってるの!?」


『れな~、凛太郎君、この前の事故で記憶喪失らしいよ~』


 教室にいた女子がその子に教えてあげた。

 それを聞いた女の子は俺を数秒見つめて訊ねてきた。


「……凛、あんた本当に記憶無いの?」


「何も覚えてない」


「……まじか」


 女の子は机に肘を付き頭を抱えた。

 だが、すぐさま頭を上げ俺の顔睨み、自己紹介を始めた。


「私は柏木れな!あんたの幼馴染よ!そして彼女よ!」


「そうなのか、よろしく!れな!」


「放課後、一緒に帰るから昇降口で待っててね」


 そう言うと、れなはすぐに行ってしまった。

 色々と聞きたい事あったのに。……そもそも「彼女」ってなんだ?


        *


 そして学校が終わり、俺はれなと一緒に帰っていた。


「……あんた、それでよく動けるわね」

 

 不安そうな表情でこちらを見ていた。

 

「鍛え方が違うからね」


「これは鍛え方とか已然の問題でしょ。普通は歩けないからね?」


「でも実際は歩いてる。俺に不可能なことなんてない!」


 俺はれなに親指を立ててグッドサインをした。

 俺は元々は勇者になんてなれる逸材ではなかった。人里離れた村の出身だった俺は死に物狂いで努力して勇者になった。


「あんた、なんか変わったわね。前はあんなに弱弱しかったのにさ」


 れながどこか寂しげな様子を見せた。


「昔の俺ってどんなやつだったんだ?教えてくれよ?」


「いいわ、教えてあげる。あんたはね……」


「――れな!隠れろ!」


 俺はとっさにれなの腕を引っ張り、電柱の陰に隠れた。


「ちょ、いきなりどうしたのよ!」


「静かに!」


 俺はあの姿を知っている。なぜやつがここにいる。

 間違いない、あれは魔王『ディアボロスト・クーガ』だ。


「なに?あの女の子知り合い?」


「知り合いもなにも俺はあいつに殺されたんだ」


「殺された?あんた、記憶喪失で脳みそまでイカレちゃったわけ?」


「れなはそこにいろ。俺はやつと決着を付けてくる」


「私の話は無視ですか、そうですか。ご自由にどうぞ」


 俺は声が届いて顔が確認できる範囲までゆっくりとディアボロストに近づいた。

 そして俺は声を荒げて言い放った。


「こっちを向け!ディアボロスト!お前だっていうのは分かっているんだからな!」


 背中をビクッと震わせ、ディアボロストであろう女の子はこっちを向いた。


「……お前は誰だ。我の正体を知っているものなどこの世には存在しないはず」


「俺は勇者『ガゼル・セシリア』だ!」


「お前があの勇者だと!?なぜここにいる!」


「お前に殺されたあとこっちの世界の男性の身体に乗り移ったのさ!」


「ふんっ!小賢しい真似を!今一度その身体消し飛ばしてくれよう!」


 まさかこっちの世界でもあの魔力が健在なのか。


「こっちで魔力が使えるわけがなかろう。それに我にはもう魔力は残っとらん」


「なんだって……?」


「だから!我はもうこの前の闘いで魔力を使い果たしてしまったんじゃ!」


「まじか!あはははははははっ!」


 俺は笑いを堪えきれずその場で笑い転げた。


「何を笑っておるのじゃ!このこのっ!」


「その程度のパンチじゃ俺には勝てないよ。魔王さん」


 ディアボロストが涙目になりながら俺を殴っていた。

 そこにはかつての偉大な魔王の姿は無く、銀髪のツインテにロールを巻いて紫の花飾りを付けた、右目が黄色で左目が青のオッドアイを持つ、愛らしく健気な少女の姿しかなかった。

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