魔王に敗北した勇者、現実世界の男子高校生に転生して魔王に恋をする。
倉之輔
第1話 敗北と転生
俺は今、これが人生最後になるであろう戦闘中だ。
魔王『ディアボロスト・クーガ』を遂に追い詰めたのだ。
「みんな!あと少しだ!気を抜くなよ!」
「「「おう!」」」
俺の他に三人のメンバーがいる。太刀使いの「フラン」、大剣使いの「アレクサンドラ」、魔法使いの「エーヴェル」だ。
このパーティで魔王四天王も道中のモンスターも全部倒してきた。
勇者として任命され魔王討伐の旅を始めてから、どんな修羅場も共に闘い生き抜いてきた頼りになる三人だ。
ここまで来て絶対に負けるわけにはいかない。
俺達の勝利を待ち望んでいる国民のためにも……!
「……我をここまで追い詰めたこと、褒めてやろう。だがこれで我を倒せるとでも思ったか?」
「なんだと?」
「見よ!これが我の本当の力だ!」
ディアボロストの周辺には先程とは比べ物にならない大量の魔力のオーラが発生していた。
そのオーラはディアボロストを覆い隠すまでに増加していった。
「エーヴェル!一体何が起きているんだ!」
「わ、わたしにも分からないわ!……言えるのはあいつが力を隠していた、という事だけ」
「……くそっ!」
魔力は増え続け、周り一帯を飲み込むほどまで増幅している。
このままでは俺達まで危ない。
そう思った矢先、ディアボロストの方から高速で魔法弾が飛んできた。
「み、みんな避けろ!」
「ぐあぁぁぁぁぁっ!」
魔法弾がアレクに直撃した。
悲鳴が聞こえなくなると共にアレクの姿も消えていた。
「気を付けろ!あの状態でも攻撃はしてくるぞ!」
アレクの死を悲しんでる余裕など無かった。
ここで全員が死んだら終わりなのだ。
「――――エーヴェル!足元を見ろ!」
エーヴェルの足元には謎の魔法陣が作られていた。
「〈エンド・オブ・ブラスト〉」
ディアボロストが謎の呪文を唱えると徐々に黒い炎が浮き出てきた。
「避けろ!エーヴェル!攻撃範囲はそこだけだ!」
「だ、だめ!魔法陣の上から動けなくなってるわ!」
俺はエーヴェルに近づき魔法陣の外へ出そうとしたがビクともしない。
「もういいわ!あなたまで焼け死んでしまう!」
「いいわけないだろ!アレクは死んじまったが、残った俺達で国に帰るんだ!」
「〈ウインド・レーヴェ〉」
エーヴェルが俺を吹き飛ばす風の魔法を唱えた。
「おい!エーヴェル!」
「あなたがいなくてはだめよ。絶対に魔王を倒して頂戴ね」
そして炎は一気にエーヴェルを飲み込み焼き殺した。
「……よくも!アレクとエーヴェルを――!」
怒り狂ったフランがディアボロストに立ち向かって行った。
「やめろ!フラン!」
「……愚かな人間よ。〈シャドウ・クラッシュ〉」
次の瞬間、空間が歪みフランが飲み込まれた。
そしてフランが再び俺の前に現れることは無かった。
残ったのは俺一人。三人とも殺されてしまった。
オーラの中からディアボロストが姿を現した。
「残すは勇者、お前一人か」
「……ああ、そうだ」
「これで分かっただろう。私達と人間の力の差がな」
「だが俺はお前に立ち向かわなければならない――」
「なぜだ?」
「俺達の勝利を待っている国民のため、そして今ここで殺された仲間のために、俺がここで諦めたら誰も救われないじゃないか!」
「そうか、なら立ち向かってくるがいい。これが本当に最後の勝負だ――!」
「俺は負けない!ディアボロスト!喰らえ!〈インフェルノ・カイザー〉」
「これが魔力最大の攻撃だ!〈デビル・ヴァイス・カースト〉」
勇者と魔王の戦いは「魔王軍」の勝利で幕を閉じた。
圧倒的な力の前に俺達は無力だった。敗北し、そして死んだ。
生まれ変わるなら魔王に勝てる力が欲しい、俺はそう強く願った。
××××年、勇者「ガゼル・セシリア」死去……
*
――――知らない天井だ。周りを見渡すと人がいた。
「……先生!目を覚ましましたよ!」
「あ、ああ!信じられん!」
先生?ってことはここは病院なのか。
「早くご両親を連れて来るんだ!」
両親?俺は一体何をしたんだ。
すぐ部屋に女性と男性が入ってきた。
「あの事故でよく目を覚ましたね……」
女性と男性は泣いていた。俺は全く状況が分からない。
「ねぇ、あんたら誰?そして俺は誰なの?そして俺はなんでここにいるの」
「「えっ?」」
女性と男性が驚いた表情をし、先生に訊ねた。
「……先生、これって……もしかして」
「もしかして……ですね。記憶喪失でしょう」
言葉が出ない二人をよそにして俺は鼻糞をほじっていた。
そのあと二人から全部の説明を受けた。
俺の名前は「上条凛太郎(かみじょうりんたろう)」というらしい。年齢は十五歳。
道を歩いていたら大型トラックというものに轢かれたらしい。それで全身を強く打ち病院に運ばれ今に至る。ちなみに腕と脚の骨が折れている。
「鏡ある?自分の顔、確認したいから」
俺は鏡を貰い顔を確認した。まずまずのイケメン顔だった。黒髪のツーブロックに目鼻の整った顔立ち、どこか前の俺に似ている気がした。
「凛太郎、本当に何も覚えてないの?」
「なにも」
「好きな食べ物は?」
「デビルゴブリンの炭火焼き~シュラムソースを添えて~」
「……これは重症だ」
俺は当たり前の事を答えただけなんだが。
普通に美味しいんだよ、デビルゴブリン。
「何でもいいんだけどさ。とりあえず俺帰りたいんだけど」
「その怪我でどうやって帰るんだ!全治四か月の怪我だぞ!」
俺の父親らしい人物が怒鳴った。
「こんなのどうって事ないって!ほらよっと!」
俺は立ち上がって歩いてみせた。
あっちの世界じゃ骨折なんて当たり前だ。魔法でも一応は治せたが俺は鍛えるために一時は骨折した状態で闘っていたこともある。
それを見た父親は唖然とし、開いた口が塞がらなかった。
俺の動きを見た先生もさすがに驚きの表情を隠しきれなかった。
そして先生が「それほど動けるなら」と言ってくれて帰宅の許可が下りて俺は帰れることになった。
とりあえず、俺はこの世界の情報が欲しかった。自分の部屋にならその情報があるのではないかと色々考えながら、俺は「車」という乗り物で家まで向かった。
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