第34話 予想外
登場人物
―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。
計測不能:不明な領域、先ライトビーム文明の避難所
普通ではない状況に置かれているのはわかった。異次元の異常な時空間の中に位置する、隔離された地であるらしかった。その見事な作りのホール内でヌレットナール・ニーグは不思議な体験をしたのだ。
周囲からは見た事も無いような姿をした種族が出現した。その容姿はやや似た種族も見た記憶はあるが、しかし完全に該当する種族は記憶に無かった。
頭部は柔軟性のある筒状の器官で、その先端部には筒の断面部分を彩るかのようにやや規則的に、円心状の歯列の輪が見えた。歯は鋭く、そして歯茎や唇、及び口腔部は統一された緑色をしていた。複数の歯列の輪の中心からは他の該当諸種族で言うところの舌であろう、蚯蚓じみた細長い器官が三本確認できた。
ウォーロードが不思議に思って見渡すと、これら未知の種族は口を開いている者とそうでない者とに大別できた。その違いは何かと思ったが、どうやら彼らの歯列と同様に円心状の輪を形成してウォーロードを取り囲んでいる内の、最もウォーロードに近い個体達が口を開いているようであった。
口からはしゅうしゅうと音が聞こえ、好奇心からウォーロードはスキャンしてみた――大体予想はできていたが。そしてやはり、口を開いている個体達は口を開く事で、銀色のアーマーを纏った巨人の発する匂いや物質を感じ取っているらしかった。
なるほど、そのようにして高度に対象を観察し、それについて推測したり考察したりするのに役立てるであろう。それから更によく観察してみた。さすがにウォーロードのアーマーは巨体であり、彼らを見下ろす形とはなったが、しかし割と体格は大きいようであった。骨格の構造上直立ができる種族ではないらしかったが、しかしそれでも平均して七フィート程の身長があった。
巨大な口の斜め方向の四箇所に漆黒の宝珠のごとき眼球が輝いており、燦然と燃え盛る知性をそこに見た。やや濃い紺色の体色をしたこれらの異種族は四本の腕を持ち、後ろ側に折れる強壮な脚部を備え、がっしりとした足は蠢くワームの群れのようなものでその表面を覆われていた。
見たところあれは高度なセンサーを備えた靴であり、安全性を確保しながら地面の情報を装着者に対して無害な形でフィードバックするものであると思われた。PGGの銀河社会に参加する諸種族のテクノロジーや文化と比べても独特であり、素晴らしいものに思えた。
ウォーロードから見ても全くの異形に見えたこれらの異星人は皆が一様に黄色い金属繊維の衣服を纏い、頭部及び靴以外の全身を覆うそれの上からローブ状の別のそれを纏う彼らは、無風の中で奇妙に揺れるその先端部が無言の語りをしているような印象を与えた。
誇り高きこれらの種族を目にしてヌレットナールはある種の感動に襲われた。こうした廃墟探索で実際に未知の種族に遭遇したのは初めてであった。敵意は感じられず、また極度の文化的な差異による不都合も起きそうには見えなかった。
ウォーロードはこちらも敵意が無い事を示すために膝立ちの態勢になり、それからアーマーの顔面部分を開いた。硬い殻に覆われたヌレットナール・ニーグの顔面を未知の種族はじっと観察していた。
彼らは何かしらのテクノロジーか能力によってすうっと、各々の『人の輪』が互い違いに別方向へと回転しており、それによって膝立ちで顔面を露出したウォーロードを見聞しているらしかった。
ウォーロードはなんとかしてこの未知の種族とコミュニケーションを取りたくてたまらなかった。何より、彼らが己を助けてくれた事はほぼ確信していたから、それの礼を述べたかった。
「さて…私の言語が伝わるかはわかりませんが。私はパン・ギャラクティック・ガーズのゴースト・ガード、ヌレットナール・ニーグという者です」
不意に『人の輪』の回転が止まった。少し緊張したが、しかし不穏な雰囲気は無かった。するうち、一人の異星人がすうっと彼に近付いた。その個体は彼の周囲を死滅銀河の変色妖精のように漂いながら、彼の持つ『情報』を吟味しているのが理解できた。
テレパシーのような精神に関わる分野ではなく、相手の肉体の組成や言語及び思考形態その他を読み取っている事がスキャンによって判明した。ヌレットナールはある種の喜びを隠し切れなかった。
「模倣率、正数上で九三パーセント、負数上で%&§■、❚❚❚ゼロ・コンポーネント、破壊された銀腺へのハイ・オーダー的感嘆。プレシジョン・オーバーライドにマイナス代入、ゼロゼロゼロワンゼロワンワンゼロ…そちらの意図をある程度理解できました。我々の種族がある種の知性ある異種族、先程あなたが滅ぼした悪意ある怪物を除けばですが、そのようなものに遭遇したのは本当に久々の事です」
なんと都合のよいファースト・コンタクトである事か。彼らはこちらの言語を解析して、それを理解できるようになったのだ。そして同時にこうも思った。己はこうした未知の驚異的な種族を守れたのかも知れない、と。
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