第31話 決着に向けて

登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。

―切断された部位群の基幹、フレースヴェルグ…未知の邪神から切り離され機能が狂った群れの統括器官、本来『ファンシー』なはずの外見表示に異常が生じた四足歩行の怪物。



計測不能:不明な領域


「で、改めてなんですけどなんとお呼びすりゃいいんです? ゴミカス野郎とかですか? 見たところ単一の群体ですし、単数形が妥当ですかね?」

 アーマーの機能で大気の層を形成し、破損したアーマー顔面部分の補填に使っているが、しかしアーマーそのものの機能が既に低下しつつあった。修復はやはり遅れていた。まあ修復の完全な妨害からは脱したと見ていいが、しかし今のペースのままではヌレットナールの死は回避できなかった。

 だが敵の群れを一網打尽にするには他に道が無いのもわかっていた。他の手段では最後のラッシュを凌ぎ切れないとわかっていた。どのように立ち回っても、現状使用可能ないかなる兵器を用いても手が無かった。数で押し込まれる。

 上に逃げてしまえばその間に像の建設予定地を占領されてしまう。使用可能なエネルギーの関係上、先程の主観的過去に発生した破壊効果の『召喚』の射程はそうは長くない。上に浮かんで、脚から破壊されるか、それともかようにして正面からそれを受けるか。

 まあ、脚部が使用可能なのは悪くない事だと考えた。その後の展開を考えれば戦闘はもう少しだけ続くはずだ。脚部の損傷は胴や顔面や腕部の損傷よりも避けたかった。

 少なくともこの腐れ果てた地獄の化け物を抹殺するまでは死ぬわけにはいかなかった。それが終われば、残り数分程度の余生を謳歌してやるか。

 ゆっくりと、よろめきを制御しながら、一歩ずつ歩き出した。見れば眼前のグロテスク極まる怪物は肉体が崩壊しそうになっていた。円柱シールドが剥げており、そのショックで更に傷付き、死すべき運命へと落下しているように見えた。

 それなら気分がいい。このようないずことも知れぬ場所で死ぬつもりは無かったが、しかし邪悪の化身じみたものが死ぬ様を見られるのであれば慰めにはなる。

「こっちはここで死んでも構いませんよ。まあここで死にたいかって言えばそりゃごめんですがね。ただ、それを承知でこの戦術を採用したわけで。そっちはどうです? 死ぬ覚悟はあります?」

 ぼろぼろになった腕部は、実際にはその中に搭乗者の腕を収納しているわけではないので、それらが損傷しただけでは登場者の肉体に影響は無い。脚部もまた然りであり、実際のところウォーロードのアーマーはその巨体の胴体部分及び頭部にのみ、搭乗者の肉体が『入っている』と言えた。

 銀色の装甲は遅々として修復されず、ヌレットナール・ニーグは窒息して死ぬのがわかっていた。それは苦しいかも知れなかった。だが、それでもよかった。銀河社会にこのような怪物を解き放つぐらいなら、ギャラクティック・ガードの端くれとして相討ちを選ぶ。

 多くの英雄達がそうした事をするだけの事だ。実際には覚悟ができていようがどうでもいい。そうするかしないか、それだけの事だ。なんなら別に恐怖の絶叫と共に窒息死してもいい。

 いずれであれ、眼前で崩れゆく四足歩行の巨大な怪物は単数形で呼ぶのが妥当そうな状態となっていた。雑魚の群れは全滅し、それらを恐らく必要に応じて『形成』するための機能は停止し、増援は見られなかった。

 己のシールドの残骸に血肉を喰い破られ、立っているだけでもやっとであり、表皮の連打を乱射し続けていた。満足に狙いを定める事もできないらしかった。

 ふと彼の顔面のすぐ横を伸ばされた表皮が通過した。だが全てはHUDで計算できる。当たる攻撃が来るとわかった時だけアラームが鳴る。近くの地面が抉られた。別にどうでもいい。あちこちで透過したり激突したり、とにかく雑であった。

 お祈りのようなものであった。適当に攻撃する事しかできないぐらい損傷しており、ウォーロードが接近できないようにとにかくどこでもいいから攻撃しているのだ。

 呼吸がやや苦しくなってきた。それ程残り時間の猶予は無い。一撃でももらえばそれで終わりであろう。だが当たらなければいいだけだ。

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