第30話 言葉ではなく行動で覚悟を示せ

登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。

―切断された部位群の基幹、フレースヴェルグ…未知の邪神から切り離され機能が狂った群れの統括器官、本来『ファンシー』なはずの外見表示に異常が生じた四足歩行の怪物。



計測不能:不明な領域


 その衝撃とその後の余波については予想していた。それによって何が発生するか、その結果己はどうなるのか。

 全て承知の上でそうした。他に勝つ手段は見当たらなかった。故にそうしたのだ。しかし不思議とそこに恐怖は無かった。

 多くの誇り高きギャラクティック・ガード達がそうしたように、必要に迫られれば己の命を犠牲にする事もあろう。

 それは誰かに強制されているわけではなく、他に道が無いように思われた時に、自発的に行われてきた。

 命を手放すのはとても怖く、身震いするような事だ。死ぬとどうなるのかについてはかなり解明されているが、しかしそれを思えば余計に…。

 故に限定された命という己の貴重な資源を守るために、逃げたとしてもそれを批難するのは容易いが、しかし同じ状況に置かれて同じ道を辿らないと言い切れるか。

 仮定の話に大した意味は無かった。重要なのは実際にその状況に置かれてどうするかという事だ。

 言うだけなら、部下ごと撃つ事も厭わない邪悪な大物奴隷商人どもにも可能だ。

 いずれにしても、それら周囲の人々がどうであれ、ヌレットナール・ニーグはすべき事をした。

 己の実行した攻撃でシールドが破壊され、その上更にアーマーも破損すると知っていた。装甲の破損によって異常な時空間の流れの影響を完全には阻止できなくなる事も知っていた。

 複雑な作用によって己が窒息する未来も予想していた。

 その上で彼は敵の群れを吹き飛ばすために、全ての武器を収納してエネルギー供給を停止し、供給先を『主観的過去』へのアクセスのためのアーマーの稼働用に切り替えた。敵の殺し方を悟ったからそうしたのだ。

 敵があの忌むべき冒瀆的な像を作るのに失敗すれば、こちらが死ぬのではなく向こうが致命的な損害を被る事は知っていたし、更に言えばもうそろそろ限界である事も知っていた。

 あれは一度起動すれば後戻りができないのだ。

 あの像を構築する兵器自体についてはその特殊性故に、あちこちへと自由奔放に流れるこの地の時間や空間を利用したとしても、巻き戻したり無かった事にしたり、あるいは別の可能性にアクセスして上書きしたりする事ができないのだ。

 理論上はあちらも、こちらがそうしたように周囲の環境を利用して時間をどうこうする事も可能なはずだ。だが…。

「いやいや、私も結構キツいんですが、そちらよりはマシみたいですね?」

 ウォーロードは破損して剥き出しになった顔面で直に敵を睨め付けながら、むしろ敵の視覚的精神侵食を跳ね返して嘲笑った。

 誰が言ったか、邪悪の事を笑ってやるのは気分がいい。それに関しては同意していた。

 特に、周囲の全てに悪意を向けてひたすら傷付け続けるような悍しい怪物が相手であれば。

 胴の装甲もかなり破損していたが、まだ内側の装甲が残っていた。

 顔面を庇った事で右腕はぼろぼろになっており、アーマーの指は錆びた何かの彫刻の細部のように崩れていた。

 邪悪なりし龍神クタニドの首席補佐官がその主君のために計画を練るように、じっと潜伏した甲斐があった。

 ある程度その場で決めた事でもあるが、しかし追い詰められているように見せるのは割と悪くない手段であった。

 相手が時間制限を負っているのであればなおさら使える手であった。焦った状態で、敵もまた窮地だと思い込ませる。

 そうすれば手が雑になる。己は冷静に打つべき手を打てばいい。そうすれば勝てる。例え、相討ちであっても勝ちは勝ちだ。

 少なくともウォーロードの設定した勝利条件は己の生存は問わず、とにかくこの腐り果てた狂った群れを殺す事であるから、問題は無かった。

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