第29話 即死兵器を逆手に取って

『名状しがたい』注意報――この話は冒頭から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。


登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。

―切断された部位群の基幹、フレースヴェルグ…未知の邪神から切り離され機能が狂った群れの統括器官、本来『ファンシー』なはずの外見表示に異常が生じた四足歩行の怪物。



計測不能:不明な領域


 異端者が最終的に落ちる場所と表現するのが妥当であろうか。あるいはあらゆる悪意の生誕の地と呼ぶべきか。何度考えてもこの地の汚濁はあまりにも酷く、顔を顰める以外には何もできなかった。普通では考えられないような邪悪に支配されたこの世の掃き溜め、腐り果てたものどもの流刑地、煉獄の亡者どもとてあえて口にはしない汚染源。万物への冒瀆すら辞さない怪物の、幼稚で愚劣極まる棲み家。

 ウォーロードは忌むべき敵が更なる攻勢に出たのを確認した。痺れを切らした、と表現してもよかろう――それにしてはあまりにもグロテスクではあるが。見ているだけでも思わず喉を掻き切って自殺したくなるような気色の悪い怪物は、諸宇宙そのものを著しく愚弄する邪悪そのものの像の完成が思ったように進まない事に業を煮やしたのであろう。総体の内の雑魚の一部どもを動かして今まで以上の勢いで殺到させた。それは混沌とした菌類の繁茂というか、あるいは信じられないような勢いで増殖しては無自覚な悪意的振る舞いを見せるウイルスというか、とにかく秩序立った戦術や戦略が見て取れなかった。これは純粋に数に任せたものであった。数の暴力という最も原始的な手段を用いて、そこにはその数をどのように効率的に投入・殺到させるかという考えは介在する余地すらなかった。相手はほとんど何も考えず、とにかく大雑把かつ苛立ちとともにそれを実行していた。渋滞になって押し合いへし合い、それでも我先にとあらゆる己の一部をヌレットナール・ニーグのいる地点へと向かわせた。彼は見えない壁際に陣取り、そこへ壁がある方角以外の場所から、地上も空中も問わずとにかく多くの一部を一点向けて殺到させたのだ。

 ウォーロードの名で呼ばれる青年はギャラクティッグ・ガードとして戦うための手術によって感覚が研ぎ澄まされており、それによって信じられないような速度での戦闘にも対応できた。彼は己に迫る群れをスローモーションの世界で視認した。己の麻痺した首から下で、心臓が他人のそれにように鼓動をしているのをなんとなく感じ取れた。アーマーの外では歪んだ大気が発狂しており、過去に向かって自然合金の悪臭に似た作用が働いていた。なんと悍しく、呪われるべき光景であろうかと考え、それからすべき事について思案した。時間は主観で見た場合は無限にあるわけではない。あの怪物も己と同じく、主観的に時間を設定する事で、この時空間が異常な振る舞いを見せる地においても行動が可能なのだ。互いの時間が少なくとも互いの主観においてはそれぞれ動いているのであれば、やがてはあの群れがこちらに到達する。距離はおよそ十ヤード未満、冒瀆こそが生き甲斐ですらあるかも知れぬ、あの単一の群体の切り離された部位どもをなんとかできないか。あれ程の量が到達してしまえば、恐らくはその瞬間に像の構築が完成してしまう。そうなれば己は即死する事をスキャン結果で知っていた。急げ、己自身はともかくとして、あれを未来の脅威として残すわけにはいかない。

 何か手は無いかと考えた。ふと己のアーマーの現在のエネルギー配分を見た。生命維持等のために最低限割いておかなければならない量以外がどのように使われているのかを確認し、それぞれの武器について熟考した。そこでふと、己のいるこの地の異常な時空の流れを活用できないかと考えた。連続体という川の中で捻れて独自に存在しているか、あるいは分岐してどこかで池を形成しているのかも知れないこの地について様々な計算をアーマーのコンピューターにやらせた。天才と呼ばれた事もあるが、少なくともこのガード・デバイスを変形させて形成しているアーマーに内蔵されたコンピューターは、己自身の手で『己よりも速く計算できるように』設計してある。

 彼は予想通りの計算結果を見て満足した。己の加速された感覚にも余裕で対応してくれる素晴らしい設計に満足した。久しぶりの自画自賛をしつつ、全ての武器を変形させて収納させた。敵が『気でも狂ったか』とでも言いたそうにして嘲笑うのを耳にした。悍しい笑い声がこの地を満たすのを感じつつ、しかし笑われるべき相手を間違えているという事を伝えたかった。

「その下らない笑いものの対象は、私じゃなくてあなた自身ですよ?」

 その瞬間、全ての武器を収納してエネルギー配分に大きな余裕が生まれ、その上あらゆる生命維持装置も一時的に停止された事によって生まれた過剰なエネルギーが、彼らの主観において『過去』に使用されたあの狂った冷気及びディスラプター兵器の衝突の際に発せられた破壊的なエネルギーを、迫る群れのど真ん中へと発生させるために投入された。それはちらりと見るだけでも常人の精神を破壊してしまう視覚効果と共に暴れ狂い、群れを尽く焼き尽くした。

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