第23話 ダンス・ウィズ・ザ・イーヴィル

『名状しがたい』注意報――この話は冒頭から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。


登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。

―切断された部位群の基幹、フレースヴェルグ…未知の邪神から切り離され機能が狂った群れの統括器官、本来『ファンシー』なはずの外見表示に異常が生じた四足歩行の怪物。



計測不能:不明な領域


 腐敗の王の下劣な部位は、あえて翻訳機能を介さずに喋ったウォーロードの言葉をやはり理解できているらしかった。全言語能力オムニリンガルか、シミュレートに基づく学習か、それはいずれであってもよかった。重要なのは眼前の切り離された幹とそこから生えるより下位の器官どもが、胸のむかつくような厭わしい合唱を始めたという事であった。敵は明らかに憤慨しており、イス銀河の悪鬼どもが飼いならす四次元の五足歩行獣の闘犬劇のごとく、威嚇の声が響き渡った。そうだ、それでいい。こちらを憎めばいい。こちらもそちらを憎むとしよう、その邪悪さ故に。これは寛容だなとヌレットナール・ニーグは考えた。やはりそのはずだ。公平ですらある。

「さてさて、私と最初に踊りたいのはどのゲスですかね?」

 身長十フィートのアーマー内部で、首から下が不自由なゴースト・ガードは相手を値踏みしていた。敵の群れの周囲をゆっくりと円をえがいて歩いていたが、やがて敵は洪水のように殺到を始めた。そいつは光栄な事ですよ、虫けらども。

 ウォーロードは敵が薄い方へとダッシュした。時々スライド移動ではなくこうして走るのも気分がいい。巨人兵士の歩行じみた大揺れをショックアブソーバーが吸収してエネルギーに変換しており、しかし完全には揺れを殺さないように調整していた。がくがくと揺れる視界、己の生来の脚ではなく人工物の鎧の内側で感じる揺れは不思議な感覚であり、今でも新鮮さがあった。敵の群れを確認し、地上型のタイプ目掛けて高出力のプラズマ兵器を発射した。当然それが何を引き起こすかは知っていた。だがその上で一つ試してみたい事もあったのだ。

 案の定グロテスク極まる、戦闘艦が引き裂かれるかのような咆哮が響き渡り、それと共に敵の肉体が信じられない長さへと引き伸ばされて四方八方に暴れ狂った。まるで竜巻じみたそれの暴走に巻き込まれない距離を取って状況を見た。するとやはり、引き伸ばされた肉体の暴走は床を透過していたが、それに対して他の一部どもに対しては相互作用があるらしかった。具体的には、高温を受けて暴れ狂う肉体が他の肉体と激突しているのだ。鞭で周囲を殴打し続けるかのようにその暴走は怪物同士の『誤射』としてある程度作用しているらしかった。透過は互いには完全ではないらしく、相応の物理的――実際にはやや異なるが便宜上として――なダメージが発生していた。周囲の個体は各々、HUDが見せてくれるヘルスバー表示で言えば三割ずつぐらいの損害をあたえていた。無論一番消耗が激しいのは竜巻化した一部であった。元の時点で既に、生物を独自の感性で悍しくも戯画化させたかのごとき怪物どもの苦しみを見ながらヌレットナールは統括器官である巨獣がまたあの輝く高温の冷気を放つのを視認し、アラームが鳴り響いた。進行方向へと片足を差し出して急ブレーキを掛けながら、彼はディスラプター兵器の弾体を発射した。

 破壊効果がぶつかり合い、その内側にいた下位の部位どもは苦悶と共に消滅していった。だが所詮は文字通りの一部であるから、まだまだ大量にいる。全滅させるのは恐らく相当な時間が掛かり、時間が長引く程こちらの手が敵に学習され、次第にミスが増えて数で押し潰されると思われた。やはり第一にはあの基幹となる部位を殺すべきであり、統括する怪物が死ねば他の怪物は死に絶えると予想された。飛行型の複数体が異常なまでに肉体を伸ばして攻撃してきたのでその一つを走りながら掴み取った。これも計算できていれば可能な事であった。そして勢いよくぐっと引っ張り、伸びたものが縮む前にそれはウォーロードの方へと勢いよく飛来してきたので、イーサーの刃を形成してそれでざっくりと両断した。腐り果てた悲鳴と共に消滅するそれを尻目に激しい戦闘機動が続いていた。

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