第24話 回避不能の兵器

『名状しがたい』注意報――この話は冒頭から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。


登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。

―切断された部位群の基幹、フレースヴェルグ…未知の邪神から切り離され機能が狂った群れの統括器官、本来『ファンシー』なはずの外見表示に異常が生じた四足歩行の怪物。



計測不能:不明な領域


 戦争ではなく浄化のために作られながらも狂い果てたシステムが、その掌握をより外部へと伸ばし始めた。変換システムによって呼吸には困らないはずであったが、しかしウォーロードは息苦しさを覚えるようになった。スキャン結果周囲の時空は奴の支配下に置かれており、敵は狂った思考でそれらに対して『締め殺す』よう命令を出しているらしかった。

 これは不味い。不意にウォーロードは空中から落下し、膝と手とでなんとか着地しながらも、呼吸が遮断されつつあるのを感じた。PGGの標準時間で残り二分で意識を失うなり死ぬなりするであろうと、HUDの警告及びカウントダウンが点滅していた。あたかも、大噴火と大津波が同時に襲来した黄土色の尺取虫の文明における、ドゥーム・セイヤー達の逃避の呼び掛けのように。邪悪なるものの干渉が強まり、総体として認識した場合は悍し過ぎて見ただけで即死する邪神の一部が、己の気色の悪い下位器官どもをけしかけた。ウォーロードは唐突にアーマーごと吹き飛ばされ、狂った魔法陣の封鎖による見えない壁に激突した。あの表皮を伸ばす連打をまともに喰らってしまったらしかった。シールド残量が四〇パーセント程一気に減少し、更にはアーマー自体にも修復困難な損傷が生じた。あの幹の攻撃はやはり段違いなのだ。普通はここまでの損害を負うはずないにも関わらず、かなりの痛手であるように思えた。

 診断の結果敵の攻撃は未知の異次元的作用によってこちらのシールド再構築やアーマーの修復を阻害しており、少なくとも今戦っている最中に直る事は無いらしかった。やはり尋常ならざる異界の邪悪であり、そしてその切り離された事で狂った器官なのであるから、想像を絶する攻撃機能を持っていても不思議ではなかった。アーマーの高度なダメージコントロールが無ければ今の連打的一撃で行動不能になっていたであろうが、しかしそう何度もこの痛打をもらうと死はすぐに追い付くと思われた。病的な時空が彼を拘束しようと干渉を続け、周囲ではその作用によって時間が噎び泣き、空間が嘔吐を繰り返していた。見ているだけで精神に悪影響が出るそれらの光景に強固な岩山じみた心構えで耐えつつ、追撃の連打を横に滑って躱し、獰猛な捕食動物さながらに殺到する群れを認識した。敵はかなり頑強であり、まずこの干渉を終わらせなければならなかった。徐々に頭部に血が登るような感覚がしてきて、アーマーの機能で耐えてはいるがそれでも徐々に呼吸困難に陥らせようとする息苦しさは否定できなかった。│クトゥルーのごときもの《クタニド》の名で知られる邪悪なりし龍神ラプーロズの首席補佐官が唄う黯黒の聖歌のごとき息苦しさが、ギャラクティック・ガードにその孤独な戦いの過ちを後悔させようとしていた。一人で戦っているために、ここまで絶望的な状況に置かれるのか。このままでは閉塞的で失望せざるを得ない、望まぬ未来が待っているのではないか。しかしそれしか道が無いのであれば、受け入れる他無いのではないか――。

 否、そうではない。今のは危うかったと言えた。もう少しで敵の未来の収束に飲み込まれるところであった。半ば強要するようにして未来に同意させ、それが思い描いた結果を作り上げる兵器を、辛うじて退ける事ができた。不意に浮かんだのは、皮肉にも親友であったはずのパラディンとの諍いの記憶であったが、それによって絶望的な支配から抜け出す事ができた。ギャラクティック・ガードとしての強靭な精神力は、このような精神干渉にも耐えられるよう厳しい訓練を受けていた。でなければ、敵に惑星を支配できる程の強力なテレパスが一人いるだけで、数百のギャラクティック・ガードによる部隊が一瞬で精神を破壊されるか即死するかしてしまうからだ。

 しかし時空に干渉して窒息を図っている別の兵器は無効化できておらず、それを補佐する怪物どもの群れもすぐ眼前にまで迫っていた。コンピューターのように高速で思考しつつ、次にすべき行動へと移った。まずこの息苦しさを終わらせなければ。緊張感で無痛のはずの腹部に幻の痛みがあると脳が誤解しており、同時に息苦しさによる首から上の痛みもあった。

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