第22話 弱点部位無し

登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年

―切断された部位群の基幹、フレースヴェルグ…未知の邪神から切り離され機能が狂った群れの統括器官、本来『ファンシー』なはずの外見表示に異常が生じた四足歩行の怪物。



計測不能:不明な領域


 まあやるべきなのであれば、やるだけの事であった。これまでもそうしてきたように。そしてそれこそが、残された数少ない社会との繋がりであるがために。無垢なる世界を見よ、そしてそれらが穢される様を想像せよ。

 PGG領内には多くの種族が存在し、それらのそれぞれの生活があるのではないか。まだ見ぬ人々を夢見て、そこが難攻不落かつ安息の場であるべきだと考えた。

 ならばここで止めて見せる。


 転がりながらもなんとか起き上がって、急激なブーストでその場を離れた。何度かと軌道を変えて狙いを絞らせぬようにした。ウォーロードの巨体よりも更に巨大な怪物は表皮を伸ばして連打し続けていた。

 今ではあの忌々しい冷気よりもこの表皮を伸ばす不気味な攻撃の方が遥かに高頻度になったが、いずれにしても猛攻と言えた。半球場のドームが形成されており、そこから抜け出す事はできないらしかった。

 恐らく頭上の狂った魔法陣のせいであろう。あれを解析して突破するのにはかなりの時間が掛かりそうであった。FTLや転移も不可能、つまりこいつを倒して維持できないようにする他無い。

 未知の魔術なのか能力なのかも定かではないが、とにかく敵は狂い果てていようが脅威ではあった。

 プレシジョン・ライフルの射撃を続けていたが敵の弱点部位は特に見当たらなかった。どの部位も特に構造上弱いわけでもなかった。

 まあ強いて言えば肉体の厚みによって、胴よりも元が四肢であった狂った付属器官の方が『装甲』としては薄いかも知れないが、しかし頭部や胴に重要な器官があるわけでもないようにも思われた。

 異常な生物である以上、予想より酷い事は考えられる。

 敵の攻撃が飛来したのでジャンプして、その上更に空中でブーストを使って位置をずらして連続で回避しつつ、右腕にプラズマ兵器を形成してそれを発射し、左腕側には重イオン砲を形成して、それらで交互に撃ち始めた。

 ゆっくりと歩きながら攻撃し続ける巨獣の表面に高温のプラズマと秒速十マイルを超えるイオンの塊が激突し、それらの破壊効果が生じた。HUDによれば効いているようではあった。

 過去のギャラクティック・ガード達の戦闘経験を蓄積して作成されたデータによって、今戦っている敵の耐久力、具体的にはスキャンによって判明した敵の肉体の強度や生命力から算出したヘルスバーが表示されており、敵の耐久力は残り96パーセントらしかった。

 プレシジョン・ライフルはやはりこの敵には効果が薄いらしく、ほとんどはプラズマとイオンのダメージであった。腕部からディスラプター兵器を発射して敵の輝く高温の冷気と相殺した直後、狂った怪物はその下位器官どもを召喚し始めた。

 時空に異常が発生してそこからあの気色の悪い陸上型及び空中型が出現し、それらの各々がウォーロードに強烈な敵意を見せた。

 ウォーロードは高速機動を止めて降り立ち、ゆっくりと巨獣の周囲を歩いた。巨獣は攻撃を止め、厭わしい音を立ててはグロテスクな表情を見せ、その狂った情報に基づいて暴れ狂っている前肢を誇示するように振り上げて咆哮を響かせた。

 まるで暴れ馬が轟く様のごとく、そしてそれを受けて周囲の下位器官どもも一斉に気色の悪い音声を張り上げ、ウォーロードを威嚇しているらしかった。

「なるほど、じゃあこっちからも聞きますがね」と彼はゆっくりと円状に歩きながら言った。「一曲どうですか、腐敗したゲスども?」

 失礼、聞くのが少し遅かったかも知れない。

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