第21話 いざ決戦を

『名状しがたい』注意報――この話は冒頭から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。


登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。

―切断された部位群の基幹、フレースヴェルグ…未知の邪神から切り離され機能が狂った群れの統括器官、本来『ファンシー』なはずの外見表示に異常が生じた四足歩行の怪物。



計測不能:不明な領域


 腐り果てし怪物を見よ。その愚かで下劣なる様、そしてそれが周囲の万物を憎むかのように振る舞う様を。それ及びその統括する部位どもは、諸世界を失墜させるものであり、厭わしい可塑性を備えてグロテスクな動作を見せ、ただそれだけで己らの周囲に悪影響を振りまく事ができるのだ――しかも無自覚となれば、いかに悪夢であろうか。煉獄で苦しみ続ける愚か者どもとて遂に夢想する事はできなかった、真の邪悪がそこに顕現し、蒼古たるこの文明の遺産を蝕んでいるのだ。狂ったスケール観のこの魔獣はその無自覚さ故に、この文明を滅ぼすか、衰退させるかしたのであろう。それもこれで最後にしなければ。

 ウォーロードは相手の動きを見ながらプレシジョン・ライフルで攻撃した。彼の視線及び精神と同調したシステムが、肩の上に形成されている兵器の射撃を司り、吐き気を催す怪物の弱点部位の類いが無いかを探っていた。敵はあの異常な高温の冷気を主に使用しており、恐らくこれは設計された時点で持っていた兵器ではないにしても、どの道脅威である事には変わりなかった。回避困難であり、防御する事もできず、可能なのは相殺する事のみであった。

 空中でブースト機動してタックルのような姿勢で移動したアーマーの背後を悍しい輝く冷気が通り過ぎ、しかしそれはしつこいティンダロスの猟犬どものごとく追尾をやめなかった。当然ながらその性質は理解していたので、ヌレットナールは背後へと振り向きながら背中から落下しつつ、それをディスラプター兵器で破壊した。信じられないような効果が発生して両兵器が互いに殺し合いながら霧散するのを尻目にして、一回転しながら着地した。プレシジョン・ライフルの銃身から高速加速されて吐き出される極小金属弾が敵の体表に激突したが、あまり効果は無いようであった。外見以上にこの怪物の耐久力は高く、狂っているとしてもやはり面倒な敵であると思われた。

 地上をスライド機動で駆けるウォーロード目掛けて、敵は己の表皮の実際の表示を異常なまでに伸ばし、狂ったように連打してきた。これは防御不可能な攻撃ではないが、しかしシールドを減衰させられる程度に強力である事が分析でわかった。本来の原子の配置と乖離したこの狂った生物の機能に辟易しながら、ヌレットナール・ニーグは雨粒のように降り注ぐそれらの連打を潜った。硬化した体組織じみた床はこの地の異常な時空間の振る舞いによって未だに惑星地表の構造物よりは劣化していなかったが、しかしそれらを貫通というより透過してくるグロテスクな表皮どものせいで価値が急激に下がっていくのを感じた。

 他文明に敬意を評さない獣は再びあの異常な輝きを放ち、その高温の冷気が急速でウォーロードに迫った。咄嗟にスライディングして雨霰を回避しつつディスラプター兵器を放ったが、しかし表皮の一部がアーマーを捉え、それの衝撃はシールドによる完全な肩代わりを無視して物理的な衝撃を与えてきた。この宇宙におけるシールド技術はある段階まで到達すると、それが受けるあらゆる有害な作用を単に肩代わりするに留まらず、例えば立っている人物がシールドを張っていたとして、その人物が車両に高速で追突された場合、車両から受ける衝撃を完全に無効化し、むしろ車両側が不壊かつ不動の物体に激突した事で大破するなりつんのめって吹き飛ぶなりするものだが、しかし眼前の巨獣はその原則を無視してきた。やはり異常な怪物なのだ。

 精神に異常が発生する事も不思議ではない、異常な鳴き声がした。あの戦闘艦が引き裂かれるものとも異なる、この基幹部位特有のそれはやはり何かしらの狂った言語であったが、翻訳が難しいそれらが意味するところはウォーロードにもよくわかった。彼はアーマーに被弾した事による理不尽な衝撃でごろごろと地面を転がりながらなんとか態勢を立て直し、指向性シールドを張って一時的な傘とした。半透明のそれの数十ヤード向こうでは怪物が邪悪な言語で彼を罵倒しながら、表皮を何箇所も伸ばしてそれで指向性シールドを侵食し、その衝撃が轟音としてその場に響き渡っていた。

 だが負けるわけにはいかない。相討ちとなろうと、この異常な悪意の塊を滅ぼさなければ。

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