第20話 己を光だと考える闇

『名状しがたい』注意報――この話は冒頭から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。


登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。

―切断された部位群の基幹、フレースヴェルグ…未知の邪神から切り離され機能が狂った群れの統括器官、本来『ファンシー』なはずの外見表示に異常が生じた四足歩行の怪物。



計測不能:不明な領域


 変異せずとも元より自然界に到底存在し得ないその怪物は、ヌレットナールの警告に対して厭わしい鳴き声を発した。未知の言語と思わしきものの、忌まわしき成れの果てがその場を満たし、獲物の内臓を穿り返しては笑い声を響かせる九大地獄の王子の小間使いどもめいた純粋な悪意が飛躍的に高まった。グロテスクなフルートの音色じみたものが外側から響き渡り、振動と共に孤独の地は変貌をし始め、ヌレットナールがそれに耐えようと地面を踏み締めていると、未知の文字らしきものが空を覆っていった。緑色に輝くそれらは複雑な図形と共に円形に配置されており、まるでこの地を塞ぐ屋根のようであった。だがよく見るとその文字も表示がところどころ明滅しており、やはり正常ではないと思われた。不気味な絢爛絵図が広がるこの輝かしき地は邪悪が望んだようにその姿を変えたのだと思われた。光量は強まっており、独りよがりな神聖さでも演出しているのかも知れなかった。

 いずれにしても答えは簡単だ。ウォーロードの警告は無視された。今や切り離された部位の統括器官は彼を嘲笑い始めたらしかった。無自覚の邪悪はその急進的姿勢を更に伸ばし、冒瀆を冒瀆だと気が付かぬまま振る舞っているのであろう。ガード・デバイスを変形させた機械のアーマーに身を包むウォーロードは、もはや相手がいかなる説得も意に介さない事を理解していた。この吐き気を催す怪物は殺戮マシーンなのであり、そして本体から長い間切り離された事で狂い果てた――今ではその推測が一切間違っていなかったという自信すらあった。

 そして残念ながら、結局はこうなるのだ――相手は話が通じないどころか明らかに敵意を持ち、なおかつ攻撃もしてくるため、迎撃せねばならない。その生来または後天的要因によって、平和的、すなわち両者が深刻な悪影響を受けないで済むコミュニケーションが成立しない事は往々にして起き得る。自覚のある悪意であれ、そうでない悪意であれ、それ以外の理由であれ、知的生命体やそれに準じた者達の遭遇は失敗に終わる事も珍しくはない。

 だがやはり、邪悪には我慢ならないものがあった。邪悪過ぎて異種族に不寛容過ぎる場合は特に。放置しておく事もできず、悪意のある接触になってしまうような行為。悪意というのは本人がそう思っていなくても成立するので、今回などはまさにそうであると言えた。

 己を光だと思っている闇はどこにでも存在する。光輝いているからといって光であるとは限らないし、実際のところ光輝く闇はかようにして暗躍しているものだ。


 ウォーロードは地獄から這い出たかのような怪物が拵えた闘技場に立ち、その鼻持ちならぬものと対峙していた。冒瀆的な巨像じみたその狂った生物は、ばたばたと高速で動いては狂った振る舞いを見せている付属器官から奇妙な光を放った。癌細胞が周囲に広がるかのように侵食が始まり、時空が嘔吐していた。華氏六万度の冷気がそこらを凝結させながら時間が死に始めた。

 その効果は予測の時点ではこのアーマーにとっても即死、直撃を避ければそうでもないにしても防御できるものではなかったため、ウォーロードは寸前で回避した。しかし回避しても追尾するようにしてそのグロテスクな効果が迫ったので、ウォーロードはディスラプター兵器で相殺を図った。右腕に形成された多目的ランチャーから発射された弾体が異常な効果にぶつかり、その際に死に絶える事に抵抗しながらその期待された効果を展開してくれた。

 理不尽な力同士が衝突し、互いを喰らいながら壮絶に果てていった。戦いはまだ始まったばかりであった。

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