第18話 光り輝く黯黒の巣

『名状しがたい』注意報――この話は冒頭から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。


登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。



計測不能:不明な領域


 かような吐き気を催すものとの対峙は覚悟をしていたとしてもやはりグロテスク極まり、自殺志願者めいており、己がどこまでも愚かであるかのような錯覚に襲われるものであった。口に出す事も憚られるような忌むべき堕落を経た黯黒の落とし仔どもが群れを成し、ぬらぬらとした腐敗した粘液にまみれて絡み合い、胸がむかつくような悪臭を放って周囲の空間そのものを汚染するしている様が浮かんだ。神話時代の恐るべき怪物、すなわち太陽暗殺の企てに関与した果てに狂い果てて当地の人類の敵と化した強壮なる有角の大蛇ユクティナのごとく、己ら以外のありとあらゆるものに敵意をいだく尋常ならざるものを想定する事ができた。事実、先程の地獄めいた体験において感じたのはおおよそそのようなものであり、光を遮る底知れぬ渦巻く重力源のように貪欲にエネルギーを飲み干しているらしかった。時空の異常な振る舞いによってあちらこちらで勝手気ままに運行する時間の流れを貪る事の中毒者となっており、闇に包まれた壮麗にして活気漂う国際都市ユゴスの数万マイル以内につい最近まで存在した邪教における、冬至の儀式が称える気色の悪い涎を垂らし続ける半生物の類似例のようなものが、一切の他者への共感を捨てて、己の分離したまま連結している細胞どもと下劣な慰め合いをしながら、今か今かと外界侵略の機会を窺っているのであろう。

 そこまで考えてヌレットナール・ニーグは己がこれから対峙するべき病巣の根深さについて考える他無かった。信じられないような悪意と敵意に満ちた殺戮のためのマシーンが蠢く穴蔵へと突撃し、そこでそれらの怪物を焼き払わねばならない。この身を犠牲としようとも、必ずや討ち果たさねばならない邪悪。落魄おちぶれて己の信者どもと乱痴気騒ぎを起こす他無く、腐敗に覆われた私生児どもを生み出し続ける邪神のごときものが座する、かつての文明の成れの果て。

 ウォーロードの名で畏怖されるヌレットナールは己に対して問い掛けた――想像を絶する化け物じみたものどもとの決戦を迎える用意はできているか、と。彼はあえてそれに答える必要すらなかった。

 ウォーロードを象徴するアーマーが宙に浮かび、崖から斜め下方の彼方にて眩く蠢く闇の中へと進んだ。何かしらの力がアーマーを捕え、それは等速ですうっと引き寄せ始めた。光り輝く黯黒の只中へといよいよ乗り込むのだ。これまでに経験した冒険の中でも一際気分を害するようなものがいる巣に乗り込み、それらの統括システムと古いやり方で決闘をするのだ――ルールは一つ、最後まで立っていた方が勝者の栄光に浴する。彼は上等だなと考えた。このような規格外の邪悪との対決は、己の希薄な社会との繋がりを強くしてくれるはずだ。不器用な己にできる数少ない社会貢献について考え、彼はまだ自由な首から上の筋肉にぐっと力が入るのを感じた。


 想像上の嗅覚が悪臭のごとき芳香を嗅いでしまったかのような感覚を覚えて、ウォーロードは武者震いするに任せた。未だに引き寄せられており、もう少しできらきらと輝く巨大な黯黒に触れられるところまで来ていた。大気圏突入のようだなと皮肉を心に吐き捨て、それがもたらすであろうショックに備えた。まだ離れた位置にいるのに今現在思考を乱そうと必死に暴れ狂っている想像上の芳香がこのレベルの不快感であれば、実際に通過する際には一体何が起きるのか。

 彼は家畜の屠殺工場で己に先行する犠牲者が容赦無く処置され、それと同じ流血沙汰に己が放り込まれようとしているのだと理解した。もしかすると誰か、既にここに挑んだ勇者がいるかも知れない。であればその誰かに敬意を表そう。そのように考え続ける事こそが、これから待ち受ける不快のもてなしに耐えるための手段であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る