第17話 放棄された神像の間
『名状しがたい』注意報――この話は途中から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。
登場人物
―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。
計測不能:不明な領域
奇妙な像達が並ぶエリアへと足を踏み入れた。それらは抽象的であり、一応は四肢を備えたよくある種族を模したものであると思われたが、しかしはっきりとはわからなかった。
わざと荒削りにして詳細をぼかした作風となっており、それらは各々が思い思いのポーズを取って通路の両側に十体存在していた。
像の背丈はどれも同寸かつかなり大きく、アーマーを纏ったウォーロードから見ても見上げる必要がある程であった。威圧感があり、どれもこれも絶妙に個々の判別ができる見事な作品であったが、しかし長い年月を経て劣化しているようにも見えた。
また、通路自体の幅があまり広くないので、余計に左右の神像は圧があるように感じられた。それらを計算に入れてここは建造されたのであろうが、しかし往時の雰囲気は消え失せて久しく思われた。
材質はこれまでに見た硬化した体組織じみたものではなく、鋼鉄にやや組成が似た未知の合金材質で作られていた。これらが最後に手入れされたのは果たしていつかとゴースト・ガードは考えた。最後にいつ、畏怖と敬愛とが入り混じった感情で恭しく人の手で掃除されたのか。
ところで経験上、これらは何かしらの神像である事が予想できた。先ライトビーム文明の恐らく同じ地域の神々を称えたものであると推測できたが、しかし言いようのない虚しさが胸にこみ上げた。束の間の戦いの休みの中で、余裕をもってある程度思案できた。
これらの神像は文明が滅ぶとはすなわちどういう事かを物語っていた。あるいは衰退かも知れなかったが、しかし最後にこの像が敬意を払われたのは遥か昔のはずだ。忌むべき何かによって蹂躙を受けたものの末路がこれかと考えると、それがそのままPGG領内にも当てはまりそうに思えた。
そうだ、やはりここで阻止せねばならない。相討ちであろうが、永劫であろうが。この文明と同じ事を繰り返させてはなるものか。ヌレットナール・ニーグは再度、己がここで負けられない理由を痛感した。幾星霜を閲してなお存在する邪悪。それがこの地にいるのだ。
万が一にも外に出してはならない。もしそうなれば人々は殺され、文化は穢され、街は悲鳴に満ち、山河は血染めとなって慟哭し…。
この神像の通路は長くはなく、少し歩けば終わりであった。端に行くとそこは崖のように途切れており、眼下には頭上と同様の濃い紫色が渦巻いていた。あちこちで時間が狂っており、ばらばらに運行していたのはこれまでと同じであった。
これで終わりとは思えなかった。このうんざりするような旅はまだ続くはずだ。敵の群れはこの程度ではないはずだ。そしてどこかにそれの幹が存在しているはずだ。本体から切り離された部位を統括する、グロテスク極まる怪物が。
そのように考えて、斜め下方をふと覗いてみた。信じられないような淀みが蠢いているのが見えた。そこだけは周りよりも更に状態が悪いように思われた。そこには恐らく何かが存在する。望遠機能で拡大してみたが、しかしはっきりとは見えなかった。
エネルギーの流れを可視化してみるとそれによって、そこには周囲からエネルギーが流れ込んでいるのが認識できた。そこがもしかすると邪悪の巣であるとも考えられた。あの奇怪な、設計上の外見と実際の外見が異なる異常な怪物どもはそこから出現したのかも知れなかった。
邪悪が邪悪を生産し続ける黯黒。見ているとそこの光量が不意に大きくなったように思われた。そして実際に計測値が跳ね上がった。何かに見られるような感覚がまず到来し、その次が地獄めいていた。
【名状しがたいゾーン】
分厚い殻の下で何かが這い回るような、ぞっとするような体験。腐敗した竪穴の奥底で気色の悪い仕草を見せる堕落した触腕どものごときものが己の内側で饗宴を開いているかのような、この世の悪意を凝縮した上で何倍にも拡大したかのごとき慄然たる感覚。思わずヌレットナールは身を震わせた。この感覚は度しがたい。というのも彼は己の肉体の自由を喪失して久しく、精巧かつ頑強な機械のアーマーの中で、それらの補助によって生活をしている身であるから、健常なる身であれば可能な『せめて掻きむしったり両腕で胴を抱きかかえるような、精一杯の抵抗』すらできないのだ。首から下が動かず、感覚も喪失して久しい彼の肉体が感じるグロテスクな何か。千の昼と夜の後も続く痒みを想起させるような拷問。
あたかも、悪意さえあればここまで他者に不快感を与えられるという事実が横たわっていた。崖の辺りで、ヌレットナールは地獄めいた蹂躙の中でぐっと顔面に力が入るのを感じた。自然とそのように振る舞い、信じられないような不快感が一刻も早く過ぎ去る事を望みながら、ズヴィルポグアの異端崇拝者を思わせる敵意に満ちた睨みを斜め下方に存在する何かへと向けた。
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