第15話 ある種の終身刑的拷問

登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。



計測不能:不明な領域


 やがて最後の一体が死んだ。今のところこれら飛行型の連中が全て倒したようだが、また別の群れと遭遇する予感があった。これら吐き気を催すものどもは恐らく無数にいるのであろう――そう、嫌な予感程当たり易いか、あるいは印象に残り易いのだ。

 無論既に戦闘モードとなったヌレットナールはその程度で怖じ気付く事など無かった。何せ、この時空の牢獄じみた領域から出られるまでには途方も無い時間が掛かると知ってなお、それに対した感動も見せなかった彼が、今更まだ見ぬ大群ごときを恐れるはずなど無かった。

 来たいなら来るがいい、相手をしてやる。せめて、この退屈極まる今後の慰めにでもしてやろう。ウォーロードの名で知られる孤独なゴースト・ガードは本気でそう考えていた。脱出できない事に絶望するよりは、ここでグロテスク極まる怪物どもと戦う事で忙しかった。

 今はとにかくやる事があった。それでよかったのだ、見たくもないものを見てそれに一喜一憂するよりは。


 邪悪との戦いは一旦中断され、彼は戦いによって傷付いた弧のエリアを眺めた。この通路は敵の理不尽に『貫通』する攻撃やその他の攻撃の影響で所々が壊れていた。当然の事かも知れないが、しかし何とも言えない嫌悪感があった。

 家の中に大量の土砂をぶち撒けたかのような感覚があった。そのような、何かを本気で貶すようなものを感じた。これはつまり侮辱なのかも知れなかった。これら殺戮機械どもは無意識の侮辱を振り撒き、そして犠牲者達が築いた文化を否定する。

 もしかすると多様性の否定なのかも知れなかった。たった一つの在り方のみを許容し、それのみを全宇宙に許可する不寛容の化身。花壇を踏み荒らし、己らの考えで全てを書き換える。なるほど、それは邪悪と言えるかも知れなかった。

 そしてそのような邪悪が先ライトビーム文明と彼が名付けたこの文明に襲い掛かったのだ。往時の華やかさは消え失せ、全ては沈黙の中へと消えた。もしまだどこかに、この文明を築いた種族――様々な証拠から単一の種族――が生き残っていればいいのだが。


 ここで生きていく上で問題は幾つかあった。というのも、ここで寝起きして食べていく事になるであろうという未来があった。アーマーへと変形させたガード・デバイスが彼の様々なライフサポートを司っていた。少なくとも窒息する事は無い。

 また、飢える事も無い。生きるのに必要なものは一応、アーマーの機能によって生成する事ができる。物質やエネルギーを変換する魔法じみた科学の産物がそれを可能としていた。尽きる事無き、この地に渦巻く不安定な時間の流れのエネルギーのお陰で彼は呼吸していた。

 このテクノロジーを開発し、ガード・デバイスに組み込んだ伝説のギャラクティック・ガードであるドレッド・オーシャンに感謝せねばなるまい。

 だが、呼吸用の大気組成や栄養分は再現できても、味気の無い日々を過ごすのかと思うと少しぞっとした。計算によると時空間の異常によって己は老いる事が無いらしかったが、しかし己自身の時間は少なくともこうして己の感覚で行動できる程度には独立して安定していた。

 となれば、やはりここが日常となるのだ。向こう数百年、数千年、数万年…ガード・デバイスの機能を調整し、食事と呼べるようなものを作れるようにしなければ、その内飽きるはずだ。

 何も彼は、食事に極端に拘るわけではなかった。それこそ一般よりも無頓着であった。それでも、このような外縁部の任務では時々文化的な食事をしていた。そういったものをアーマー内に少し貯蔵しているのだ。

 見たところ、節約すればこれらの『人生の清涼剤』は銀河標準時間における六週間は大丈夫そうであった。その後が問題ですかと彼は皮肉っぽく考えた。

 まあ、己の心配はまた後にしよう。まずはこの冒瀆者どもを抹消せねば。それがこれら不寛容に対して示せる精一杯の寛容であった。多様性を否定したいならやってみるといい。そして知っておくべきだ、その否定される多様性には、あなた方自身も含まれるという事を。

 これは最大限の寛容な対応だなとヌレットナール・ニーグは考えた。

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