第14話 グロテスク極まる邪悪の群れ
登場人物
―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。
計測不能:不明な領域
本質的に忌むべきものというのは悲しい事に実在する。それはとても残酷で、排他的で、不寛容であるようにも思える。しかし現実に打てる最大限寄り添う手が『それはよかった、では跡形も無く消え去りたまえ』と告げて実行に移す事の他に無い場合もある。実例としてはこのようなグロテスクな怪物どもの事だ。
本質的に邪悪であり、他者に左右されぬ自己参照的な悪意を持ち、それと同様にして自己を燃料として存続し続けるようなもの。そしてその末路として、『自己』の大元であるオリジナルから切り離されて情報更新が停止し、それが長期に渡った事で何らかの論理的エラーを引き起こし、やがて狂った命令を繰り返し続けるようになったもの。
単一の群体に起こり得る事であり、そうでない単なる凡百の俯瞰者達にも無縁ではない欠点だ。群れという名の己が存在し、しかしそれらは独立した全てが同一の存在の部分なのであって、何かしらの理由で切り離された場合には、それは単一の肉体を持つ種族からその肉体の一部を切り離すのに等しい。
その結果はその種族の性質にも依ろうが、しかしわかり易い例であればやがて腐るという事だ。それは『死んでしまった』という事で、新規の活動が見込めず、諸々の機能が停止してやがては腐敗した組織の残骸と成り下がる。切断された一部がまさにヌレットナール・ニーグの目の前で悪夢的に実体化していた。
しかし呪われるべき事に、それらが本来持っていた有害性は不幸にも損なわれておらず、あるいはより悍しくなったか、もっと別の悍しさを帯びたと思われた。
ウォーロードと呼ばれる青年は眼前の吐き気を催す連中を睨め付けながらそれらの性質について、戦いながら再度考えていた。何かしらの邪神の、切り離された事で発狂した体組織どもという可能性。なんと奇妙な形態の生物であろうか、それらを生物と呼ぶのが相応しいのであればだが。
殺戮マシーンである事に相違無いと思われた。本質的にはそうなのだ。これらは、あるいは殺戮というよりはもっと別の概念――例えば『洗浄』『掃除』のような、相手を舐め腐った無自覚の見下し的定義――をその目的としているのかも知れなかったが、いずれにしても有害であった。
スキャンによるとそれらは猛毒を纏っていた。未知の物質による猛毒は放出され続けており、PGG加盟種族の約九割にとっては致命的であった。そのような連中に市民を近付けたくはなかった。守護こそ己の生き甲斐だと今更に再確認した。
猛毒はあの芳香と同一なのであろう。それはスキャン結果として認知しているのに過ぎず、実際に嗅いだわけでもないにも関わらずわざとらしい事が理解できて、しかも強烈な毒性すらあるというのだ。肉体及び精神、及びそれ以外の分野に作用する劇毒。
その悍しさに顔を顰めながら彼は回避機動を取り続けており、狂い果てた怪物どもの攻撃に当たらないよう最大限努力しつつ反撃していた。思っていた以上には強くない。今のところこれら邪悪な飛行物体の攻撃は全て回避できているし、広範囲を薙ぎ払うような兵器は搭載していないらしかった。
しかしもしかすると数でごり押しするのかも知れなかった。これらは歪んだ悪意によって本能的に動いている分遣隊であって、氷山の一角に過ぎないのかも知れなかった。実際のところ、経験上はそういう嫌な予想程的中する。
気付いた事としては地上型の連中と違ってこれら飛行型はプラズマ兵器の発射物が発する超高温に反応して肉体を高速で伸縮させては暴れ狂うような反応は見せなかった。まあ聴くに堪えない冒瀆的な悲鳴が響き渡る事には変わりないが。
一体ずつ、戦闘艦の悲鳴じみた絶叫と共にその数を減らして行った。これらは相互にコミュニケーションを取る手段を持っているのであろうか。もしそうなら更に増援が現れるか、そうでなくとも次に向かう場所でまた別の同様の怪物が現れるであろう。
大きな弧を形成している通路の上での激闘はヌレットナールの優勢にあった。敵は互いが交差して貫通した狂った双翼によって羽ばたきながら攻撃して来ていたが、しかしそこまで高火力という事も無い。まあ戦闘能力の無い民間人にとっては最悪であるが。
しかもそれらの攻撃の威力は高度な文明の産物であるシールドに対して損耗を強いていた。地上型の連中との戦いで一度だけ被弾した際に、想像以上にシールド残量が減ったのだ。
その事について考えるとこれらの敵に対する敵意が上昇するのを感じた。敵に対しては好きなだけ敵意を向けてもいいかも知れない。それらの敵が、話し合いが通じずこちらを滅ぼす事しか考えていない何かであり、その上更に、己の行為について何ら悪びれない場合などには。
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