第13話 悪意ある飛行物体

登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。



計測不能:不明な領域


 グロテスク極まる浮遊物どもが数十程出現した。それらは明らかに悪意に満ちており、正常ではなく、吐き気を催す元来の悍しさを備えていた。

 紫色のどんよりとした空が広がるこの地において、異常な時間の流れのせいかあるいはそれ以外の理由によってか狂い果てた怪物どもは溶け込む事はなく、目立っていた。

 このような悪意あるものどもとの交戦における数少ない幸運としては視認性が悪くないという点が今回は存在した。まあHUD上で輪郭を光る線で強調する手もあるが。

 異常なまでの破壊衝動が感じられ、恐らくは同胞以外の全てを破壊するよう狂った命令を繰り返していると考えられた。

 これらの浮遊する群れは地獄めいた姿をしており、正直なところ見た事を後悔させられる点では先程のタイプの敵と同様に思われた。

 翼であったと思われる部位が頭上で互いに貫通した状態で羽ばたいており、例によって正常な原子配列情報を得られていないせいで原子ではない何かでその姿が描写されているらしかった。

 頭部は斜め下方向けて伸びており、天然痘の神への異端的かつ瀆神的な崇拝形態における神像のように醜く歪んでいた。

 アーマー越しでもその異常なわざとらしい芳香が推測でき、今現在の姿との落差があらゆる種族に精神的な悪影響を与えると思われた。

 狂気の産物であるそれらは脚が狂った絵画のように伸びて垂れ下がっており、全体像としては銀河の諸種族の平均的な体長にも匹敵するかやや上回る大型の飛行生物だとも言えた。

 無論これらを一般的な生物として分類するのはそれこそ学問的な冒瀆であり、純粋に研究精神及び中立性を求めるはずの学者達でさえ喜んで軽蔑を向けるであろう。

 色合いは一部の狭い界隈における感性によって作り上げられたと考えられる非生物的かつ奔放な、全くの妄想の産物じみており、ある種のファンシーさがあり、それが逆にグロテスクさを引き立てていた。

 黯黒の領域より到来したと推測されるそれら怪物どもはウォーロードを視認して信じられないような悪意を向けてきた。幸い彼がアーマーによって外界から遮断されている事でそれらの影響を受ける事は無かったが、しかしそれでも嫌悪感は隠せなかった。

 ただその場に存在したり吠え立てたりするだけで精神を著しく損なうであろうそれらの振る舞いを受けて彼は戦闘態勢に入った。あの戦闘艦が引き裂かれるかのような絶叫と共に数体のそれらが一瞬妙に動き、羽ばたきながら己らの脚を信じられない速度で伸ばして来た。

 ヌレットナール・ニーグはそれに反応して回避する事ができた。即座に左へとブースト機動で躱し、ある種の絶望的な気色悪さを湛えたそれらの脚部による刺突ないしは蹴りが先程まで彼がいた箇所を空振り、それらは床を貫通した。やはりすり抜けている。

 相変わらず異常な振る舞いだなと思いながら彼は敵の群れの動向を観察した。他の個体達も射程圏内に入って来て己らの異常な脚部を伸ばして来た。彼は回避する代わりにイーサーで形成したシールドを前面に張ってそれの後ろに待機した。

 自殺を誘うような脚部が即席の壁に激突し、半透明の壁の向こうで吐き気を催す厭わしい衝突音が鳴り響いた。これらはまあ雑魚敵の類いなのであろうが数は多く、とりあえず落ち着いて殲滅する事を心掛けた。ヌレットナールは実験として再びプラズマ兵器を起動してそれを発射した。

 超高温の眩いエネルギー塊が秒速三〇マイルで突き進み、反応が遅れたそれらに衝突した。彼は己の時間を定義しているため、敵の時間の流れを利用した速度にも対応する事ができ、通常通りに戦闘する事ができた。時間の停止にほぼ匹敵するような遅延を起こされては一方的に嬲られてしまう。

 まずもって彼はスタートラインに立つ事ができており、想像するだけで胸がむかつくような感覚に襲われる、何かしらの尋常ならざる過程を経て狂ったこれらの生物と渡り合うには問題が無かった。

 無論グロテスク極まるものではあったが。

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