第12話 穢された文明
登場人物
―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。
計測不能:不明な領域
個人的にはガード・デバイスのより強力な兵器を解除できずにここで殉職してもそれは規定上仕方が無いとすらウォーロードは思っていた。
ガード・デバイスはその気になれば凄まじい大量破壊兵器となる。早い話惑星を崩壊させる程の兵器も搭載している。つまりとても危険なのだ。
そのようなものを個人に委ねているのであり、『すみません、判断を誤って戦場の地域ごと吹き飛ばしてしまいました』ではどうしようもない。
個人の判断に大量破壊兵器の使用を任せて、その結果例えばとある建造物の制圧を目的としていたのに都市ごと灰に変えてしまったりしたら目も当てられない。
隊員一人一人の資質の差はある。極度の緊張状態というのは考えられる。判断を誤ってしまう可能性は否定できない。そのような状況で『子供に大地を抉るような超高出力レーザー兵器のスイッチを渡す』ような事があってはならない。
大量破壊兵器の許可を得たい時はあるし、実際己がこれから遭遇する状況がまさにそれかも知れないが、しかし独断で決める事には疑念があった。
彼が最低限の社会との繋がりを欲する最大の理由の一つであるかも知れなかった。己の正常さを最低限確認したかった。
まあその件は仕方が無い。もしかすると今以上の大量破壊兵器が使用できないせいで死ぬかも知れないが、それは制度上仕方が無い。
できる事をする以外己には何もできない。死ぬのであれ生き延びるのであれ。
広場の入り口と反対側へと進むとそこの硬化した体組織じみたものが開いた。そのドアの向こうにもこの文明のものである人工物が広がっており、しかしやはり空は開けていた。
どんよりとした濃い紫色の空を見上げつつ、彼は更に進んだ。これら吐き気を催す怪物どもはまだまだいるはずであった。底知れぬ悪意に満ちており、殺傷の衝動に突き動かされているらしかった。
名状しがたいものどもの巣窟となったこの地について哀れに思ったが、しかし現実問題としては対処せねばならなかった。これらグロテスク極まるものどもが外に流出する危険性が万が一にもあるのであれば…。
これらにくれてやれるのは死のみだ。ある種の安楽死であり、博愛主義でもあった。ヌレットナールはこうした生物に一体何が起きたのかを推測した。
もしかするとあれらは深刻なバグに見舞われているのかも知れなかった。本来の機能が狂ってしまい、正常でない行動を延々と繰り返すのだ。まあ元が何であったかは知らないが。
そこからは弧を描く通路が続いていた。まあ例によって嫌な予感がしたものの、銀河の平和のためにすべき事をしなければならなかった。PGGの市民がこのような怪物に遭遇すべきではなかった。
手摺りぐらいの高さの捻じ曲がった枝じみた物体が絡み合った柵が両側にあり、なるほど先ライトビーム文明を創造した種族は用心があって安全に気を配っているのだなと思った。
この孤は数百ヤード続いており、元々は何のために存在したのかは想像が難しかった。もしかするとこれらの遺跡か何かは元々あの衛星または星系内のいずこかにあったのかも知れなかった。
つまり本来は通常宇宙に存在していて、元々設置されていた場所は景観がよくて、この孤を歩きながらその絶景を眺められる観光または類似する精神的保養のための施設とも考えられた。
しかしそれを思えば皮肉であった――ほれ見た事か、またあの時空間の異常だ。
歪みが生じて再び何かが零れ落ちるように出現し始めた。悍しい声が響き、それはやはりあの戦闘艦が被弾した時のような破壊音じみていた。一般的に想像できる形態の生物を悍しくも戯画化させたがごとき怪物ども。
見ているだけで気分を害する何かしらの雰囲気があり、その正体が徐々にわかり始めた。これらの生物はその性質上『わざとらしい』のだ。故に愛嬌に欠けていた。
愛らしさや美しさを纏おうとしてどうしようもなく失敗しているような雰囲気があった。そしてそれだけでなく、本来の姿を失って狂っていた。
怪物どもはヌレットナールが立っている孤からやや離れた座標に出現し、物理法則をこれでもかと冒瀆したかのごとき面妖な能力で浮遊していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます