第11話 戦闘開始

登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。



計測不能:不明な領域


 それら異常な怪物どもは五体おり、その内一体がプラズマに被弾した事でとても奇妙な振る舞いを見せていて、その他の個体は異常な速度でウォーロードと交戦していた。彼の周囲を飛び回るそれらとの位置関係を調整するために彼自身も高速で動いていた。

 敵は不気味なまでに長い腕及びそれぞれが腕と同じぐらい長い指を振るってウォーロードのアーマーを攻撃して来ていた。彼も素人ではないのでもちろんその程度のものに当たるつもりは無かったが、しかし敵は思ったより速かった。

 プラズマは相手に異常な反応を誘発させてしまう事がわかった。となると他の兵器を使うべきか。彼はプレシジョン・ライフルを使って攻撃した。秒速九〇マイルという異常な速度で飛ぶ極小金属弾がおよそ一三〇RPMのペースで次々と発射された。

 異常によって己の本来の姿を保てていない敵にそれらの弾丸が命中し、プラズマ兵器が命中した時のような尋常ならざる変化は見られなかった。飛び掛かった敵の一体のそれを回避して、その個体が着地した瞬間を狙ってタックルをお見舞いした。

 強烈なタックルから更に腕を振り上げてそれを叩き付けた。それによって後退した敵目掛けてライフルを放ち、相当な速度へと加速された弾丸が敵に激突した。貫通しないようコントロールされた弾丸が内部で莫大な運動エネルギーによる破壊を引き起こした。

 あの破壊音じみた異常な悲鳴と共に怪物の内一体が沈黙し、それと同時に荒ぶって肉体を乱舞させていた個体が通常に戻った。無論これらにとっての通常というのはそれはそれで説明が難しいのだが。

 吐き気を催すそれらは仲間が殺された事にも特に反応が無かったので、通常の生物であるとも思えなかった。高度な戦術を備えているでもなく、戦っている感覚としてはある種の簡易ドローン兵器と戦っているような気すらした。

 プラズマと似たような反応が起きる事を警戒して温度に破壊を依存するレーザー兵器は使用リストから外し、近距離の敵とやり合うにはやや取り回しの悪いプレシジョン・ライフルとの併用として左腕にイーサーの追尾弾を放つ散弾ランチャーを形成し、右腕は連射式のポピュラーな加速兵器と交換した。

 彼は己のシールドを削られないよう上手く立ち回りながら上下左右を高速で移動する敵四体をこれらの兵器で攻撃した。基本的には偏差射撃機能を使って撃ったが、相手を誘導するためにわざと手動で撃ってそこに本命を撃ち込んだりした。

 異常な敵達はその数を一体ずつ減らし、やがて最後の一体が散弾を受けて吹っ飛びながら消滅していった。なるほどこれらは結局のところ死ぬまでも死んでからも正常な情報取得ができないのであって、ならばいっそ死は救いであるかも知れないなと冗談めかして考えた。

 思ったよりは速いもののそこまで強敵というわけでもなく、もっと強い敵と戦った経験も多いため、被弾は最小限で終わった。やがてシールドがリチャージされ始め、周囲を確認した。敵の反応は全て消えており、また一人になった。

 敵はまだどこかにいるのであろうが、とりあえず前に進むべきかと考えた。世の中にはこのような強い敵意を持った生物も存在して、そのような生物との接触は大体悲劇的な結末を迎えるのだが、その迎えたリストにこれらも加える事になりそうであった。

 ヌレットナール・ニーグは危険生物の全てを殺して回っているわけではない。つまりそれだけガード・デバイスは強力な攻防を備えた兵器であり、実際のところ交戦しなくても高速で離脱すればいいのだが、中には今回のような例もある。

 特に証拠があるわけでもないが、何故先ライトビーム文明が滅ぶなり衰退するなりして、少なくともあの衛星からは住人が姿を消したかが理解できたように思った。星系内には知的生命体の姿が見られず、絶滅したのであれまだどこかに隠れているのであれ、その原因はこのような異常な生物のせいであろう。

 ただあのガス惑星軌道における艦隊を用いた戦闘の痕跡を見る限り、これらの生物にはその飼い主なり仲間なりがいて、それらが艦隊戦規模の戦闘をした事になるのではないか。

 あの痕跡は明らかにこの文明を遺した種族の同族内での戦争ではなかった。もっと強力な何かがいるかも知れなかった。それだとガード・デバイスをより強力にしたいところだが、生憎ここでは本部から許可をもらう事が物理的に不可能であった。

 手持ちの兵器で勝てるかどうか。考えても仕方無いので彼は歩き始めた。

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