第6話 時間的な異常

登場人物

―ウォーロード/ヌレットナール・ニーグ…PGGのゴースト・ガード、単独行動の青年。



調査開始から数十分後:不明な領域


 より正確に己が置かれた状況を確認するため、ウォーロードはこの得体の知れない地をスキャンする事にした。周囲に満ちるエネルギーを確認したかった。

 ひょっとするとここから出られない可能性もある――それはとても高いように思われた――が、ともあれ周囲すらよく忘れる事だが一応彼は科学者であり、やや冷たくなった好奇心から調査してみたくなった。

 数世紀程経てば誰かが己の送信したデータを発見してくれるかも知れない。それならば価値はあろう。

 ギャラクティック・ガードとして、彼は己の調査結果が社会の役に立つ事に関しては、周囲と壁を作った今でも関心があった。それは数少ない世の中との繋がりであった。

 スキャンによると己が立っている場所はある種の侵食下に置かれており、周囲では時間が奇妙な振る舞いを見せていた。四次元以上の空間なのかと思ったが、データ上では異なっていた。

 時間はある地点では停止しており、ある地点ではゆっくりと流れており、ある地点では急激に遡行しており、ある地点では過程が無視されてあちこちの時間方向へと飛び交い、その他様々であった。

 そしてそれらの影響は約一時間後に己が立っているかつて大気浄化システムであった人工物にも及ぶらしかった。また同時に別のデータでは三秒後にそれが起きるとしており、時間がとにかく狂っていた。

 主観的にはまだ通常だが、やがて狂い始めるはずだ。ならばまず生き残るために手を打たなければならない。

 ヌレットナール・ニーグは今後誰も己の事をウォーロードと呼ぶ機会には恵まれないかも知れないと考えつつアーマー状のガード・デバイスを操作した。

 実際には既にデバイスが状況を診断し終えており、まずこの異常な状況に対応する事を既に決定していた。

 着用者に意識があるため、ガード・デバイスはHUDに説明文を表示して、対応策を承認するかどうかを問うていた――まるで長ったらしい契約書だ。

 彼はそれを承認し、その直後得体の知れない時間の異常が彼のいた一帯を飲み込んだ。時間の奇妙な振る舞いによって大気浄化システムの床は様々に引き裂かれた。

 だがウォーロードは健在であり、彼はガード・デバイスによる主観的時間定義によって生存していたのだ。

 周囲のおかしな時間の振る舞いに準拠せず、自身で従うべき時間を定義する事で惑わされずに行動できるよう調整された。

 これぐらいはまだ許可が必要無い――ガード・デバイスは武器として考えた場合にあまりにも危険な代物であり、様々な機能に制限があって、それらはPGG本部の認証を必要とした。

 特に兵器としての破壊力に関しては都市の区画を吹き飛ばす事を念頭にした規模――区画ティアと呼ばれている――までしか単独使用できない。それ以上は本部の厳重な確認と認証とが必要とされた。

 この場合のガイドライン上の問題は、敵が強大であった場合、本部と連絡が取れない現状では区画ティアで対応できるよう祈る他無い。

 何故そのような話になるかというと、ウォーロードの経験上こういう状況ではほぼ確実に敵が出てくるのだ。否、ここまでの危機的状況に見舞われた事は、復帰後でも初めてだが、それでも大体当たっているように思われた。

 故に彼は何が起きても対応できるよう気持ちを入れ替えた。既に非常識な事が起き続けている。生き残れる限り生き残らねばならないのであれば…。


 彼はアーマーによって外界と閉ざされている事が明確な恩恵になっている現状を皮肉に思った。この流浪的孤独に意味が生じた気がした。

 とは言えギャラクティック・ガードであればどの道、ガード・デバイスがある以上は対応できていたわけだが。だがもし健常の身であればと考えた。

 もしかすると、こうして以前のような、標準の『薄手』のアーマーによってこの状況下に置かれれば不安であったかも知れなかった。

 今ではアーマーの代わりに、ガード・デバイス自体をアーマー状に変形させ、九フィートの巨体と化したそれにすっぽりと覆われているという安心感があった。

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