第8話 女騎士と剣術の訓練などして覚えてしまったヤクザキックで逆転されたい


 いくら深く想い合っているからといって、いつもふざけてばかりではありません。

 あなたもフラン=ノエルも騎士団員である以上、当然そこには本懐があります。


「くっ……相変わらず、やるじゃないか」


 木剣が空を切る音が重なり合います。

 あなたとフラン=ノエル、どちらも剣には長けていますが扱い方はまるで違います。

 彼女はあくまで優美な洗練された剣技。

 剣をぶつけあう事をよしとせず、紙一重で見切り、失点を抑えながら根気強く相手の隙を待ちます。

 対してあなたは、乱暴に――――剣をぶつけて受ける事をいとわず、強気に攻めます。

 受けて、流し、叩き斬る……荒っぽいながらも効果的な、戦場上がりの剣技です。


 “お前こそ、相変わらずだ。当てられる気がしないな”


 足元を払おうと、ぐん、と近づいた所で死角から腹を狙おうと、彼女にはかすりもしません。

 もともとの彼女の才覚に加えて、こうして手合わせを続けるうち……あなたの戦い方は読まれたからです。


「そうでもないさ。最初のころは随分と泣きを見たものさ」


 出会った最初のころ、彼女が態度を軟化させる出来事の前。

 傭兵団あがりのやり方で彼女から星を奪った時には、ずいぶんと嫌われたものでした。

 「卑怯者」だと、「それが騎士たるものの戦い方か」だと、打たれた事を不服に、きゃんきゃんと吠えたてられました。

 あなたは、それでも笑ってこう答えました。


 “今のうちに覚えろ。卑怯なヤツはいつだって実在するんだ、俺が仲間でよかっただろ”


 そう言うと、当然、「私と貴様は仲間などではない! 思い上がるな、平民が!」と返されたものです。


「ふっ……。では、先生・・。私の学びを見てもらおうか?」


 そんな揺さぶりも、彼女にはもう通じません。

 斬り、払い、突き、フェイクの踏み込み――――どれも通じず、合わされ避けられてしまいます。

 思った以上にフラン=ノエルの順応は早く、あなたが知りえた暗闘のような剣技ももはや優位ではありません。


 そのとき、ふと目の前にふわりと浮く木剣に、あなたの目は引き付けられました。

 フラン=ノエルが振ったものではありません。いや、その持ち手はとっくに離れていて。


 直後、腹部に重い衝撃が走ります。


 弾き飛ばされ、どすんと尻もちをついたあなたが見たのは。

 投げ上げた木剣を囮に腰の入った見事な前蹴りを放ち、翻らせた手で空中の木剣を受け取り、その切っ先をあなたに向ける女騎士の姿。


「……これで一本。返したぞ。卑怯とは言うまいな?」


 ふふん、と得意げに笑う彼女はどこか誇らしげです。

 あなたは悔しいと思う気持ちよりも、どこか……負けたというのに、爽快な。

 思いの通じたような奇妙な気持ちがありました。

 ですが、彼女は気付いていません。

 その乱暴なケンカ殺法での逆転は、いつの間にか集まっていた同僚達に、しっかりと見られていた事に。



 数秒後には、真っ赤に顔を染めて。


「ち、違うんだ! これは、だなっ……! 剣ではなく! 白兵訓練だ、そう、白兵!!」


 などと、苦しい言い訳をすることにも。





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