第6話 女騎士に黙って宿舎自室で燻製を作って超叱られたい
もうもうと立ち込める煙は、部屋の外で番をしているあなたの鼻腔を刺します。
燃えず、焼けず、ひたすらウッドチップを燻ぶらせて熱い煙を充満させた部屋の中には、塩と香辛料をなじませた肉がいくつも吊るされています。
さすがに室内にいる訳にはいかないため、廊下の窓を開けられるだけ開け、木桶に水を何杯も組んで万一の備えをして……自室を燻製小屋代わりにしてしまいました。
しかしそんな事をしていれば、すぐ見つかってしまいます――――彼女に。
「おい、何だこの煙は! よもや火事か!?」
袖で口元を覆いながら、彼女は、女騎士フラン=ノエルはずかずかと大股で、問い詰めながら近寄ります。
さすがに派手にやりすぎたか、と反省するのもつかの間。事情を説明するとさらに彼女は怒りました。
「この大バカ者が! せめて中庭でやれ、中庭で! だいたい卿はこの間も魚を干していただろう、よりによって我々の掲旗を染め直している横で!」
“中庭ではうまく煙が籠らない。この宿舎は最適なんだ。肉の量も量だし……”
「なら誰かに小屋を借りろ、たわけが! ああ、もう、 どうするつもりだ、こんなに煙らせて!」
“どう、って……お前と酌み交わすアテにでも、と思って……”
「……えっ」
街を歩いていたら、肉屋のおかみに呼び止められて、ずっしりと上質の肉の塊を貰ってしまったのです。
それはおかみのご厚意で、お礼の品。
聞けばおかみの妹が、街角で産気づいてしまったのをたまたまあなたが助け、家へと送り届け――――途中で産婆をひっつかまえて、そのままするりと産まれて母子とも健康、との一幕。
一度は固辞したものの、あれよあれよと馬の鞍袋に放り込まれてしまえばさすがに断れません。
さてさてどうしたものなのか、と思案を巡らせ巡らし、たどり着いたのは血迷い尽くした答え。
――――そうだ、燻製にすれば日持ちするな。
――――迷ってる暇はない。さっそく、帰ったら。
そして、次に思いついたのは騎士フラン=ノエルの最近お疲れの様子。
このところ仕事が多く、彼女を癒してやるためにおいしい肉と酒を、と安直に考えました。
「……なるほど、なるほど。気持ちはありがたい。だが、これはさすがに別だぞ」
“大丈夫だ、問題ない。騎士団長には叱られるだろうが殺されはしない。分け前を持っていけばいい”
そう言って、できたての燻製肉を
彼女は、しっかり聞きました。
一棟離れた騎士団長の部屋から響く。
天高くより振り下ろす
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