第5話 女騎士と舞踏会に招待されてみたい


 ある晩、舞踏会のお誘いを受けました。

 主催者はとある貴族の御方の御令嬢、その方と女騎士フラン=ノエルは旧知の仲で、親しくしています。

 そこで御令嬢が彼女のエスコート役として白羽の矢を立てたのがあなたでした。

 よからぬ者が紛れ込まぬとも限らないため、会場に腕に覚えのある騎士団員にいてほしい、というのが名目だったとのこと。

 しかし、実際のところ――――フラン=ノエルとあなたの事を知っている御令嬢が、ちょっと気を回したという事にうすうすあなたは気付いています。


 御令嬢とフラン=ノエルが歓談している場から離れ、壁の花を決め込みながらも傾ける葡萄酒ワインはまぁまぁの美味。

 キラキラした御屋敷のダンスホール、テーブルに並べられた軽食とみずみずしい果物、負けじと着飾る社交界の面々といったら、呆れるほどにまぶしいもので。


 “――昔の俺に食わせてやりたい”


 傍らのテーブルからとった果実をかじり、じゅわりと喉を潤す果汁を飲み込みながら、しらけたようにひとちます。


「あぁ、ここにいたか。探したぞ、卿。……あまり見るな、着慣れていないんだ、こういうのは」


 いつものような騎士団の外套とも軽鎧とも違う、目の覚めるような真紅のドレス。

 彼女の白い肌を際立たせるような配色、膝上まですっぱりと切れ込んだスリット、短剣のように細いヒール。

 覗き込めてしまうような胸元、ぎゅっと引き締まったお腹、夜会のために丁寧に巻いて編み込んだ髪型。

 貴族の御婦人方さえ霞んでしまうほどに綺麗で、思わずあなたは口を開けて見とれました。


「そろそろ、壁を飾るにも飽かないか。そのっ……私と踊れ。好かないのは分かっているが、一曲ぐらいは、な」


 好きでも得意でもないダンスも、できないという訳ではありません。

 でも、どうしても気が乗らないけれど……彼女とだけは、別なのです。


 “……一曲だけだからな”


 彼女の手を取り、ダンスフロアへゆっくりと進み出ます。

 うまくもないし、好きでもないし、得意でもない、けれど――――彼女とならば、別なのです。


 そして踊り終えて疲れたころには、彼女はゆっくりと耳打ちしました。



「……今夜は、寝室まで送ってくれるな?」





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