第3話 女騎士にカン違いで向こうからキスされたい
ある晴れたうららかな日のこと、街外れの見回りに出た時のことでした。
城壁の外には彼女――――騎士フラン=ノエルのきれいな髪にも負けず黄金に輝き、風にそよぐ小麦の穂波が一面に広がっています。
畑仕事に精を出す農民たちも、今年は豊作だと喜び合い、今年の冬を心配なく越せる事を今から予感していました。
「ふふっ……壮観じゃないか。パンもいいが、最近は
並んで歩いているうち、あなたは気付きました。
彼女の髪に、どこからかふわふわと飛んできた綿毛がしっかりとしがみついています。
ときおり風が吹いても、とれる様子はまるでなく。
「おい、……何だ、そんなに見つめるな。何を考えているのだ?」
“ちょっと動くな。そのままだ”
あなたはそう言って、こちらを向き直った彼女の髪へと、そっと手を伸ばし、近寄ります。
しかし彼女は突然のことにもうろたえる様子もなく、どこか得意げな笑みを浮かべながら、あなたが近づくのを待っています。
その指先が、くっついた綿毛に触れたその瞬間。
フラン=ノエルはやや背伸びをします。
唇にふれる、暖かくて柔らかい感触。
いっぱいに太陽の光を吸い込んで伸びる夏の花のような香りが、熱を帯びて鼻腔をくすぐります。
その時間はほんの数秒、目の前にあるのは彼女の穏やかに閉じた目と、しなやかに長い
されるに任せていた時間が終わりを告げると、騎士フラン=ノエルは唇を離し、さっきのようにふふん、と表情を変えました。
「……どうだ? 卿にはいつも不意を打たれるからな。先手ぐらいたまには打つともさ」
“いや……俺は、ただ……”
状況を誤解した彼女の前に、さっきまでひっついていた綿毛を差し出して見せます。
すると、またもころころと表情が変わり。
「まっ、紛らわしいことをするな、馬鹿! 何だ、まるで私がこんな、いやらし――――もういい、帰るぞ、帰る!見回りは十分だ!」
くるりと踵を返し、彼女はずかずかと歩いて街へと戻っていきます。
その時また風が吹き、その髪を翻らせます。
見えたのは――――真っ赤に染まった、騎士フラン=ノエルの耳でした。
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