第2話 女騎士と雨の日の午後を楽しみたい
それは、憂鬱な雨のしとしとと降る午後の事。
激しからず、しかし静まらず、上がることなく降る雨が窓を叩くそんなある日のこと。
騎士団本部の一角、窓辺の席でずっと機嫌の治らない空を眺めていたら、ふわりと香り良いお茶の、暖かい湯気がただよってきました。
そちらへ視線を向ければ、ゆっくりと衣擦れの音を立ててテーブルの向かいに彼女が座っています。
目の覚めるような黄金の髪は、明け方から降りしきる雨で湿った空気の中でもまっすぐ、素直に下りていました。
「雨がそんなに珍しいか? ……いや、懐かしいのか?」
いくぶん気の緩んだ服装の彼女、女騎士フラン=ノエルは袖を折り返した装飾布付きのシャツを洒脱に着こなし、胸元を少しくつろげています。
じっと見つめてくる瞳は深い
彼女が淹れてくれたお茶を一口ついばむと、ふだん自分で淹れる時とはまるで違った
「ところで知っているか? 遥か東のとある島国には、“雨”を評する言葉が数十はあるそうだ。……随分と天気の悪い国なのだなと知った時には思ったが……」
“今は、違うのか?”
「ふふっ。どうあれ雨は降るものだ。恵みでもあり、災いでもある。ならば言葉遊びで雨の日和を楽しむのもまた、なかなかに洒落ているじゃないか」
くす、と笑う頬のやわらかなくぼみ具合は、あなたにだけ見せるもの。
穏やかに晴れるような表情は、窓を叩く雨の音を少しだけ忘れさせました。
“こういう雨は、何と呼ぶ?”
「さて、どうだったかな。ああ、それともう一つ。その国では雨の音を、“声”と呼ぶ事もあるとか。全く、かなわないね。いつか訪れてみたいものさ」
片頬杖をつき、先ほどまであなたがそうしていたのを真似るようにして彼女も雨降る窓の外へ意識を向けます。
しとしと、ぴしゃぴしゃ、いつまでも続く雨の歌声にまるで聞きほれるかのように、穏やかに眼を閉じました。
気付いたことは、もうひとつ。
横を向いた彼女、フラン=ノエルの後ろ髪を彩るのは、あなたが送った髪飾りひとつ。
しなやかな銀細工で象られたてはいても、決して高級ではない、市場であなたが見つけた無銘の品。
彼女は、この非番の日。
ずっと――――それを身に着けて過ごすと、決めていたのでした。
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