第21話 闇ども

詳細不明:


――いや、覚悟はしていた。お前もそうだろう。


――もちろんそうだ。しかし俺が言いたいのはそこじゃない。


――なんだ?


――あいつを見捨ててしまった。助ける事もできた。


――それはそうだが、わかっているはずだ。あいつを助けるには時間が無かった。あいつを置いて来た状態ですら、セキュリティを誤魔化せる制限時間ぎりぎりだっただろう?


――違う。


――何がだ?


――『置いて来た』んじゃない。『見捨てた』んだ。


――今になってそういう議論をする気か? 俺達は、あいつが同じ立場だったら当然そうした事をしたんだ。


――目的のために死ぬ覚悟と、友達を見捨てるのは別だ。


――じゃあ聞くが、あいつを助けて三人全員で計画が露見してしまう事の方が良かったのか? そうなれば俺達がこれまでにしてきた努力が全て無駄になる。あいつもお前も、それに俺も、そのために今まで水面下で計画を進めてきたんだぞ。


――あいつは重傷だったんだぞ。その状態で暗い夜の海に落下した。浅瀬とは言え水深は人間の身長の何倍もある場所だった。もはや泳ぐ事もできず、何かしらのリカバリーもできず、藻掻きながら沈んで、あいつは目に見えない鮫の群れを想像したはずだ。


――それは、わかっている。


――本当か?


――なんなんだ。


――適当に話をはぐらかすのはやめろ。あいつの死を本当に気にしているのか?


――仕方がない犠牲だったんだ。


――そういう事を聞いているんじゃない。だから『はぐらかすのはやめろ』と言ったんだ。お前にとってあいつは一言二言で済ます程度の存在だったのか? 『必要な犠牲でした』とかその程度の話で終わるような、どうでもいい奴だったのか?


――そうは思っていない。


――堂々巡りだな。ちゃんと言え、あいつはお前にとって捨て駒だったのか? それとも親友だったのか? 俺にとってあいつは親友だったし、あいつが暗い海に消えて海流で流されながら沈むあの光景が全部頭の中で再生される。


――俺達は目的のためにやって来たんだ。だが、その上で…あいつが…あんな死に方を…いや、まだ生きているかも知れない。


――適当な事を言うな。生き残れたと思うか? いいか、俺とお前はあいつが死ぬ事を黙認したんだ。目的のためと言い訳して、誓いを立てた親友を見捨てたんだ。俺は二度と忘れられないだろう。


――俺だって平気じゃない。あいつにまた会いたい。


――俺だってそうだ。だがもうできない。


――俺はああするしか無かったと思うが、あいつが恋しい。


――俺は、せめて少しでも助ける努力をするべきだったと思っている。

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