第22話 苦痛には耐えられるがそれでも鬱陶しい事に変わりはない

登場人物

―リヴィーナ・ヴァンマークス・シュワイツァー…軍人、魔術師、友の復讐に燃えるドミネイターの少女。

―C.M.バースカラン…リヴィーナの後輩、年若き二〇代の青年。

―ドーニング・ブレイド…不老不死の魔女、オリジナルのドミネイター、大戦の英雄。



二一三五年、五月七日、夜:北アメリカ大陸、ミシシッピ川条約機構議長国『新アメリカ連邦』領、旧フロリダ州地域、暫定グレーター・セミノール保留地近郊、コースト・プラザ・ビル、屋上レストラン跡


 眠れない、というのは想像以上に苦痛であった。常に意識があって、常に脳がある程度以上活動している。

 意識がある状態で心身を休ませる手段を構築しないと、ドミネイターとして生きるのは困難であった。

 リヴィーナの場合、意識を落ち着かせて想像上で眠っているというような状況を作る事はできた。他のドミネイター達もそれぞれ苦労しているはずだ――まあと言っても眠れない悩みを抱えても異常にタフな精神を持つドミネイターは戦えるのであるが。

 さて、特に第一世代ドミネイターは睡眠不能である事に起因する深刻な精神的欠陥を抱え、彼らは生来の強固で事実上破壊不能な精神力を持ちながらも、しかしラニもまた第一世代用の常備薬が欠かせなかった。

 遮光ガラスで覆われた屋上のレストラン跡地で、リヴィーナは設置式の対面座席に座らず、地べたに座ってそれらの座席に背を預けた。

 隣の座席ブースではバースカランが座席に座ってテーブルに脚を投げ出して、映画の権力者のように背凭せもたれに両腕を置いて広げていた。

 少し離れた場所の壁にドーニング・ブレイドが座って壁に背を預け、軽く天井やそのガラスの向こうを見ていた。

「そういえば…少佐、少し構いませんか?」

 リヴィーナは少し声を落として聞いた。

「何かな?」

「少佐も睡眠ができないのですか?」

 ふと見るとバースカランもこちらを見ていた。

「睡眠、か。最後にしたのは…私が可死の身であった頃、外的要因はともかく寿命で死ぬ運命にあった頃になるだろう。それが一体何十世紀前かは、忘れたがね――というのは嘘で、本当は自分が今現在何歳かは知っているよ。いずれであれ、眠るという行為は私の人生の大半では無縁だった」

「それって、相当厳しいんじゃ?」とバースカランが会話に混ざった。

「バースカラン最上級曹長、心配しなくても構わないさ。ロイド=ブソス卿との交渉で、あなた方人造のドミネイターからはあくまで睡眠の権利のみを差し出す契約にしているのは周知の事実だ。寿命で死ぬ権利までは契約に入っていないとも」

 不死の魔女は軽く笑いながらそう答えた。だが、数千年もの間、眠る事もできず、あらゆる出来事の目撃者でいるというのは果たしてどういう体験であるのか?

 それはリヴィーナにもバースカランにも想像ができなかった。

「いえ、そうではなく少佐が相当大変だったんじゃないかって思いまして…」

 バースカランは控え目に訪ねた。

「大変、かね。まあ慣れてしまった面もあるが、確かに別の面で言えば、例えばこのアメリカという地である種の『当事者性』を持たざるを得ない状況が数百年以上続いたのは事実だよ。必要であれば今後その話をしよう。私の話は長いと評判なので、事件調査の空いた時間でもあればその時に」

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