第5話 フロリダの歴史
登場人物
―リヴィーナ・ヴァンマークス・シュワイツァー…軍人、魔術師、友を探すドミネイターの少女。
二一三五年、五月七日:北アメリカ大陸、ミシシッピ川条約機構議長国『新アメリカ連邦』領、旧フロリダ州地域、暫定グレーター・セミノール保留地から北西に十四マイル地点
少女は午後のフロリダ半島を疾走していた。『怖いもの』を見ないように、そして考えないようにしながら旅路を縮めた。これまでのようなある程度ゆとりのある行程ではなく、今日中に着く事を強く意識した。
だが、友人の無事を信じたとしても、現在のフロリダ半島の奥深くが置かれている状況について考えないわけにはいかなかった。政治的な問題があると言えばあった。
それを本筋だとは考えたくない一方で、彼女の正義や公正さを愛する側面が『それでは駄目だ』『無視するな』と告げており、新アメリカ連邦を愛する軍人として、それを拒む事はできなかった。
数百年前、リヴィーナの祖国と接続されたその前身であるアメリカ合衆国によって侵略を受けたセミノールとその同盟者達が圧倒的不利な中で『手狭な』領土を守り抜いた。
現在の戦略的コモンウェルスの『前身』の一つであるイギリス帝国が存在した時代、彼らは新興国アメリカへの対抗策として諸インディアンとの同盟を組んでおり、その一環として後にセミノールと総称される複数部族起源のインディアン達――及びインディアン以外の人々――はアメリカとは敵対的であった。
三次に渡るセミノール戦争後の長い歴史において『フロリダのセミノール部族』という部族的政体、及びそれに属する事で『インディアン』として認識されてきた人々は、オクラホマへの強制移住を拒んだグループである。
彼らはいわゆるエヴァーグレーズ地域が入植者によって書き換えられていく間も生き残っていた。国立公園成立によって指定地域から締め出されようと、ミカスキ・インディアンがセミノールから分離して独自の連邦承認部族として成立しようと、その全てをそこで見てきた。
フロリダのセミノールとミカスキは合衆国という巨大な力の中に否が応でも組み込まれつつも、誇りと独立心を胸に独自性を保ち、『白人』の世界の経済力を身に付け、その影響力に悩みつつも命脈を保ってきた。
結局のところ二一世紀中盤以降のアメリカのあらゆる差別の撤廃や解消が、その実先住者達の土地の大半の問題解決に至らなかったという不都合な平等の中でも、彼らは世界に面と向かって胸を張っていた。
そしてカジノと観光によって得た利益はやがて、ドーン・ライトとの戦争期間中に思わぬ意味を持つ事となった。
戦争初期、合衆国も世界中の様々な事例と同様にその各地が分断された。腐敗EMPによる様々な機器の破損とそれによる通信途絶は、合衆国のような大きな領土を持つ国には特に国内での影響が大きかった。
東海岸、特にニューヨークを中心とした一帯は時空歪曲ポイントによる異次元の生態系の流入と侵略によって大きな被害を受け、彼らは西に後退を余儀なくされた。
『ワシントン』や『DC』のような言葉は『合衆国の政治の中心、首都』のようなニュアンスで使う事例自体が過去の歴史と化し、第二次世界大戦後から長らく世界最強の国と目されてきたこの国は中枢機能をより安全な西海岸のロサンゼルスへと移転させた。
そして無論だが、通信途絶によって全てのアメリカ軍兵力がこれに同調できたわけではなかった。
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