第2話 友を訪ねて
登場人物
―リヴィーナ・ヴァンマークス・シュワイツァー…軍人、魔術師、友を探すドミネイターの少女。
二一三五年、五月七日、午後:北アメリカ大陸、ミシシッピ川条約機構議長国『新アメリカ連邦』領、旧フロリダ州地域、暫定グレーター・セミノール保留地から北西に二九マイル地点
徒歩での旅は好きであった。まあ戦後一年も経っておらず、それ故交通網は遮断され道路は荒れ放題であるし、使用可能な車両は優先度の高い任務に回されていた。
リヴィーナは一応軍属であるが、ドミネイターとしての権限である程度以上に単独行動も許可されていたから、消息を断った親友を探しに、彼が復興視察で様子を見に行ったフロリダ半島の南の方へとこうして歩いていた。
途中、軍の大型輸送車に乗せてもらい、それによって旧カリフォルニア州のロサンゼルスにある新アメリカ連邦――及びミシシッピ川条約機構――の後方要塞であるウォール・シティからフロリダの手前ぐらいまでは移動できた。
フロリダの地形やその現状について情報が足りない部分もあったが、予定では一日に約四三マイルは移動する事になっていたし、実際今まではそうしてきた。
ドミネイターとはある種の超人兵士であり、高度な訓練を受けた魔術師であり、一人一人がある種の要塞のようですらあった。
大気や日光など、食事に依らない手段で生命活動に必要なエネルギーを生成する事すら可能で、何十時間も戦い続け、尋常ならざる精神力を持ち、人ならざる生命力を持つ兵士達。
それがドミネイターであり、それまではあくまで裏の住人であった世界各地の魔術師達が表世界の政府や軍と、大規模に共同した事業であった。
逆に言えば、裏の魔術師社会がある種の裏経済だけで回っていけるような時代は終わったのだ。
例えばラゴス魔術院が存在する異位相でさえ異次元生物による侵食の影響は出ており、それ故に❘
世界のあらゆるルールや今後の道筋を変えてしまった大事件が終わり、二〇年戦ってきたドミネイターの少女は奇妙かつ美しい大自然を眺めながら、内心で親友の心配を続けていた。
彼女が生まれた時には既にあの次元間戦争は始まっており、オペレイターとしての適性が無かったためドミネイターとして処置を受け、訓練を積み、二〇年間軍人として国、あるいは人類そのものに仕えた。
リヴィーナはもう何年か様子を見て、それで状況が再び悪化するような事が無ければ退役しようと考えていた。
無論、今後どうするか、その予定は全く決まっていなかったが。そしてそうやって退役後の事を想像しようとする度に、どうしても『避けられない事実』が思い返され、胸の奥が痛むような気がした。
だが、今は生きているであろう親友の心配をしなければならない。
ラニ・フランコ・カリリは大柄なハワイアンで、よき父親で、そしてリヴィーナから見れば長年の付き合いのある大親友であった。
曰くフランコというのは一家が世話になった親類の名前で、イタリアから単身ハワイに来た移民であった。
ハワイは狭い島であるから、昔から大勢の人々の様々なルーツが複雑に混ざり合うとラニは酒を飲みながら、独特の笑みを浮かべて語っていた。
そのラニの故郷であるハワイも、地球−ドーン・ライト戦争などと呼ばれ始めた異次元との戦争においては、新アメリカ連邦の重要な要塞となった。
今は恐らく復興拠点として大忙しであろう。人類はこれから再建期に入る。リヴィーナとしては、南北戦争の再建期やその後のように、『歪曲した』歴史が生まれない事を祈る他無かった。
なんであれ、ラニが無線に出ないのは奇妙であった。そしてそこに、なんとも言えない不安があった。
彼女は高く、そして蒼く輝く空を見上げた。冬はやや冷えるものの、この季節ともなれば…。
蒸し暑く、温暖な楽園のようなイメージのあるこの地。湿地帯と森林とが広がり、かつて人が多く通った道路は罅割れ放題、草も生え放題。
元々の動植物に、毒々しい色合いのドーン・ライト側の生物も混ざった、大自然がそこにあった。
リヴィーナは確かにこのような風景が好きだ。大自然の中を歩くのは心が落ち着く。だが、彼女は心の中で広がりつつある不安を隠すのが難しくなっていた。
もう少ししたらまた走って移動しようと考え気を紛らわそうとして失敗した。再び、思い出したくない『事実』が大きくなり、それに比例してラニの身の安全がどうにも気掛かりで仕方無かった。
ラニは強い兵士で、熟練の戦士であった。ハワイ系の魔術に通じ、彼を伝説の英雄マウイと呼ぶ者すらいた。
長年軍で働いてきたプロであり、先の戦争の英雄であり、そして家族想いの立派な人物であった。
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