第23話 世界征服やめろ
9月中旬、3作目『超かくれんぼ』が出た。
デスバ
「つまらない」「金返せ」「いつも同じ」「くだらない」「脱力」「作者の
総攻撃。袋叩きだ。
デスバ島で俺を絶賛していたテレビの芸能人たちも、揃って「2作目は……」「3作目は……」と、感想を求められれば言葉を
うるせえ、馬鹿にしやがって。
自分たちでは書かないくせに。
本を出せば、金がもらえるんだ。
金がもらえる限り、俺は何を言われたって書き続けてやる……
そんなモチベーションだったから、4作目は単行本で出せない、文庫本書き下ろしになると言われた時は、ショックだった。
文庫本というのは、
作家になるまで知らなかったことだが、小説というのは、まず大きな単行本で出て、数年後に、同じ内容で小さな文庫本で出る――1つの話で時期をずらして2回出るのが普通らしい。
単行本は先取り版でありデラックス豪華版で、どうしても買いたい読書文化の熱心なファンをターゲットにしている。だから、値段も高い。そして文庫本は、
文庫書き下ろしというのは、新作を単行本では出さずに、いきなり文庫で出すということだ。
文庫の値段は、単行本の半分から3分の1。
つまり、1冊刷られたときの俺の収入も、単行本のときの半分から3分の1になる。
書くのに4ヶ月かかっていることを考えれば、『超かくれんぼ』のような売れ行きでは普通のアルバイトと大差がない。それも初版1万部での計算で、このまま低調が続く場合、最初に刷ってもらえる数も減るという。
『デスバ島』……現在6万部。未だこつこつと売れ続けている。
『密告フェス』……現在2万部。
『超かくれんぼ』……現在1万部。重版の目処立たず
新たな柱になると思っていた2作目・3作目は、完全に不発に終わっていた。
どちらも、ネット上のレビューは記録的な低評価になっている。
そして、売上げが落ち込むにつれて、阿久津家まで暗くなった。
親父とお袋は「刊行ペースを倍にしたらどうだ?」「もっと優しい内容を書いたらどう?」とか言ってくる。そんなこと言われても、それがいいのかもわからないし、どうしたらそれができるのかも、わからないのに。
俺はこれでも、精一杯やってるんだ。
10月、『超かくれんぼ』の評価が固まった頃には、クラスの中に見えない壁ができていた。
積極的な
ありがたいことに、クラスのお調子者が「作家・
中学の頃、幸運に一発当てて作家になった、阿久津仁。
その一点をもって無理して西鳳にぶら下がっている、苦労人。
「いいなぁ」という
少数ではあるが、俺がデスバ島以来、
教室での居心地は入学時よりも悪くなった。
俺は交流を求めて、放課後には文芸部に向かうことが増えていた。
溜まっていた提出物を出してから、部室に向かうと――
「だからさ……阿久津くんって、大したことないじゃん」
2年の先輩……
クソ、ここでもかよ。
「おい、掛川……」
むきになったような、掛川先輩の声が響く。
「阿久津くんが書くの、全然面白くないじゃん。というか文章になってないじゃん。あんなので本になるなら、誰だって書ける。もちろん、俺だって……う、うわっ!?」
ガタンッ、ガシャンと、椅子が倒れる音がした。
「お前な……思うのは自由だ。でもそれ、絶対にここで言うなよ」
「で、でも……実際……」
「阿久津くんの作品の評判は、この際いい。でもな、彼は本物の編集者に見せて、アイデアをたくさんボツにされて、でも書いて、全国の読者に発表してるんだ。しかも、1冊あたり何百ページも、年に何冊ものペースでだ。僕たちにできるか? 小説を書く書くと言って、部誌に20ページの小説すらしんどかった僕たちが。書きたいものを『つまらないからボツ』って大人に駄目出しされながら、本当に書き続けられるか?」
「そ、そんな……それは……」
「できないだろ。少なくとも僕にはできない。彼の2作目以降の評判が良くないのは、誰でもわかる。僕だって、読者として内容的に光る物があるとは思えていない。でも、文芸部だからこそ、彼の苦労の部分をわかってやらないでどうする。というか、自分たちにはできもしないことを笑うなんて、そんなの……人として!」
「わ、わかったよ。わかったから、離せって」
「もうやめて! 私も、書けなかったのに同じこと思ってたから……」
足立部長の絶叫。掛川先輩の涙まじりの声。
「あ……」
背後から聞こえた声に、俺は振り向いた。
夕暮れの中、
文芸部内で起きた一部始終を、聞いていたのだろう。
「泣いて――?」
志築は、そう言いかけた。
俺はうつむいて首をふり、指で目をこする。
志築は近づいて、俺の腕をとった。
「こっち来て。広報部として、取材を申し込みます」
志築は俺を部室から引き剥がすように引っ張って、足早に階段を上がった。
こいつは本当に……いい女だ。
きっと、俺が
あと、足立部長、ありがとう。
それと……
俺は階段を上がる直前、部室を振り返った。
部屋の中にあった気配は、4人。
足立部長と掛川先輩が長机の向かいに座っていて、部長が身を乗り出して胸ぐらをつかんだのだろう。狭山先輩が止めに入った声はドアの近く、部長の
狭山先輩は恐らく足立部長に気がある。
隣が空いていたら必ず隣に座る法則がある。
足立部長の斜め向かいに狭山先輩がいたということは――
足立部長の隣には、
碇――
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