第13話 資格

いち民間人の僕が聞いていいような話なのか困惑しながらも聴き入っていく。

 古びた書籍を開いたような感覚に頭を悩ませながら、思考の深淵へ落ちていく。



 「今では、我がギルドよりデネブ一派が核となるメーソンギルドの方が表舞台に名が通り、世界に影響力を示している。」

 

 「敵対の理由は、まあそう確かにあるのだが、話の本筋ではないから今は割愛させていただくとしよう。」


 「君はもう感じていると思うが、世界はとても窮屈だ。」

 「第二次世界大戦後の世の中を見てみろ。」

 「貴族時代は終わりを告げ、今や世界は戦勝国の思うがままじゃないか。」


 「敗戦国、後進国には浮上する余地もないほど、搾取に搾取が積み重ねられている。」

 「先駆者には持たざる者が太刀打ちできぬのだ。」

 

 ギルフォードは一気に捲し立てると、一呼吸つき、僕の方をじっと見つめてきた。

 

 「だから作ったのだよ、せ・ん・く・しゃを。」


 「それが僕?」


 喉の奥から出た独り言で我に返る。

 目を合わせ面と向かって言われた事が現実になっている。

 視界の端で女性戦士がこちらを見ていた。



 「でもなんで僕なんですか?」


 僕がそう聞くと、ギルフォードは右手の人差し指で宙に∞を描きながら語った。


 「この世には、太古の昔から続く理があるんだよ。」


 そう言うと机の上に宝石を並べた。

 その一つ、深紅色の宝石を人差し指で軽く弾き無造作に並べられた宝石に当たり広がった。


 「ギャンブラーの誤謬」

 「聞いたことがあるかどうかわからんが、簡単に説明すると確率には偏りがあり、異常に多い数値の塊の後には異常に少ない数値の塊がくる。」

 「これはギャンブラーが陥りやすい思考の罠のように言われ、実際にはそんなことは起こらないとされている。」

 「だが、実際には“シンクロニシティ”偶然の一致があるのだよ。」


 その言葉にちょっと考え込むがどうして僕と繋がるのかわからない。

 

 「そこで我々が探しはじめたのは、HSP能力者。」

 「HSPとは、ハイリー・センシティブ・パーソンの略で高い感受性を持った人類の総称だ。」

 「人口の2割が該当する特に珍しくもない性質だ。そう言ってみればどこにでもいる普通の一般人ってわけだ。」

 「だがその特徴で比類すべき長所があってな、第六感というべき直感力に優れた能力を持っている者がいるのだ。」

 「その能力者は、顔の表情や場の空気だけでなく時の流れから未来をも読み解き、異世界と繋がっている魔法とも言える力を所持しているのだ。」


 どうしようかと右手を見ながら考えていると、見透かしたような目でこちらを見つめてくる。


 「もうすでに気がついているんじゃないか?」

 「自分にはその資格があると…。」


 いきなり僕の心をズバリと言い当てられ、一瞬ビクッとしてしまった。


 確かに僕はここに来るまでの間に魔法というものを体験してしまった。

 自ら使えるということを証明してしまったではないか。


 この世界では、魔法と言えば基本的にマジック的な事を指し、仮想の存在でファンタジーそのものであり、存在などしないものなのだ。

 しかし、一度使えてしまった今だからこそ言えるが、人類は何らかの修練を積んでいけばほとんどの人が使えるのではないかということを。


 

 色々と気になる事はあったが話の腰を折ることになるので質問はしないで黙っておくことにした。


 「会長は…あぁ、というかもう気がついているだろうがこのギルドの会員は皆、HSP能力者であり、第六感所持者であり(魔法の)経験者なのだよ。」

 

 「人にもよるが、我々をESPとか魔法使いとかいう。」


 「会長は亡くなる前に予知夢を見たのだ。もう時期、磁場による偏りが来るということを。そのタイミングが自分のなくなる時、すなわち今このタイミングなのだということを。」

 「会長は今年、君という人材を育成することで、共鳴による効果で多数の魔法使いを生み出し、この世界に異世界を作り出すことを予知しておられたのだ。」


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異世界がないなら作ってしまえ(仮題) 貯古菓子 @alocacoc

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