第12話 説明

 軽く顎を突き出して、右手の人差し指と親指で顎を摩りながら、ゆったりと話し始めた。

 僕はまるで合格発表を待っているような子供の気持ちになりながら、視線を送る。

 

 「彼女が親父と言っていた人物。それがこの

 マーチャントギルドの会長であり、総帥であ

 った。」


 僕は、浅く座っていた椅子から前傾になりながら空唾を飲み込み、話の中に吸い込まれていった。


「このギルドは古くは中世ヨーロッパ時代に結成された名もなき商人の集まりだった。最初期は、3人からなる友人たちのたわいもない賭けから始まった。一人は石切職人のデネブ、金貸しのベガ、道具屋のアルタイル。

 3人は貴族からなるこの世界を変えるにはどうすればいいのか、賭けをした。

 デネブは、『力には力を!』労働力という数こそ正義という信念を持ち仲間を集めることこそ貴族を打ち破る唯一の方法だとした。

 ベガは、『金こそ正義!』力による支配は反発を生みやがては討ち滅ぼされるが理。どんな貴族も金の魅力には勝てない。金の前にはどんな貴族も跪くとした。

 アルタイルは解く。『知識こそ全て』君たちは正義が勝つというけれど、僕らからすれば正義であっても貴族からすれば悪。その逆もまた然り。絶対的に相手より上に立つためには常に有利な状況を生み出せばいいとした。」


 初めて聞く話に僕は少し緊張してきた。

 教科書には載らない歴史の裏側を垣間見ているみたいだ。

 僕は座っている椅子の縁を人差し指で摩り、今起こっていることがやはり現実なんだと実感する。

 今や僕が物語の主人公然としていることに少なからずテンションが上がり顔が蒸気していくのを感じる。

 

 「マーチャントギルドは各々の賭けの証明をすべく市民を巻き込み商人を巻き込み勢力を拡大していった。その存在を貴族が知った時にはもはや対抗できない力を持っていた。」

 

 ギルフォードは、軽く目を閉じ顔を虚空に向け、座り直し一息ため息をついた。

 

 「世代が変わり、いく年月が流れ、大きくなりすぎたギルドは袂を分かち分裂をし、互いの理念を証明するべく行動していった。

 今でも西欧圏では王族貴族が亡くなっていないようにその賭けの勝敗はつかず仕舞いになったまま。」

 

 ギルフォードは少し悩むような目線を僕に送りながら、少し微笑んだ。


 「このギルドは、世界最古のギルドでありながら、始祖3人の理念と思想を受け継いでいる唯一の存在なのだ。」

 「最初にギルドを抜けたデネブ一派は、手職人組合、後のメーソン(石工)ギルドを結成し秘密結社として当ギルドと敵対する存在となった。」

 

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