第9話 浮上

 「あなたは想像した以上の存在なのかもね。」

 「さ、もう時間がないわ。急ぎましょう。」


 リュックを背負った一見して幼女のようにしか見えない娘にひきつられ、洞窟の奥へと進んで行った。

 10分ほど歩いただろうか。気になって周りを見渡すと、洞窟の奥は、案外広くて暖かく、次第に鍾乳洞のような突起物がなくなり、何か巨大な力に掘り起こされた空間へと変貌してきた。

 僕らはやがて、白い空間の中にたどり着いた。

 遠くの方で淡い光を放つ魔法陣的なものが見える。

 察するにあの魔法陣的な何かに乗ってこの場所に転生させられたかなんかだろうな。

 

 やけになったのだろうか、徐々に余裕が出てきて、観光気分のおのぼりさんのように壁や床をまじまじと観察し始めた。

 もうこの期に及んで、この神聖な空間は僕の想像力では構成できないという現実を突きつけられ、僕の作った夢の世界という夢オチを諦めるようになった。


「さあ着いたわよ。」


 娘が僕の顔をまじまじと見つめた。

 僕も初めてしっかり娘の顔を見返して、ゆっくりと頷いた。


「一つ忠告してもいいかしら。」

「きっとあなたは、不思議に思っているんでしょうね。ここに来たことも、そして、これから起こるだろう未来のことも。」

「だけど、忘れないでね。あなたがワクワクする未来が待っているって。だから最後までやり遂げるって誓ってほしいの。」

「私はここでお見送り。機会があったらまた会えるわ。では行ってらっしゃい!」


 幼女に軽く背中を押され、光の渦の中へ入っていった。

 と同時にお腹の奥が猛烈に痛くなり頭から足先まで万力で押し潰されたような痛みが走った。

 その痛みからはすぐに解放されたが、今度は体に浮遊感が押し寄せ脳内が明滅し始めた。

 暗転した世界はやがて光の世界へと姿を変え、僕自身の網膜の赤い光に困惑しながら、到着の時を待った。

 僕はどこかで安心していた。安心しきっていた。きっと僕は物語の主人公で、異世界を魔法で無双するんだって。

 いや、それは間違いだった。物語の主人公がこんな死ぬより酷い痛みを味わうなんて聞いちゃいない。またしてもあの幼女に嵌められた。

 僕は、失敗から何を学んだ?

 幼女を確かに警戒していたんだ。ついさっきまでは。だのに何故着いて行った?

 あの幼女はあのタイミングで何であんな事を言ったんだ?


 「忠告?最後までやり遂げるって何を?」


 僕はこの世界について何一つとして知らなかった。説明を求めていた。

 いや、こんな状況でさっき見知った幼女を信じて信頼してもう痛い目にあったじゃないか。

 見た目に騙されるって僕は見る目ないな。女性は見た目じゃない。



 「ようこそ、マーチャントギルドへ」

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