第10話 組合

 鼻の奥を刺激する強烈な臭いで、船酔いのような状態から一気に覚醒した。

 レモンとシトラスの香りを混ぜ合わせたような匂いだ。


「我々のギフトは気に入ってくれたかな。」


 鼻筋が通った青白い肌の青年がこちらを値踏みするような感じで見つめてくる。

 大理石でできた円卓に座し両手を肩幅ほど開き、テーブル上に添えている。

 

「……」


 僕は自然と眉間に皺を寄せていた。

 僕の彼に対する第一印象は最悪だ。

 まだ気持ちの悪さは抜けていない。これが異世界モノで、さっきのが転生というものであるならば、僕の身体に何かしらの変化は訪れているのかもしれない。

 僕は軽く手をひらひらと振ってみた。

 間違いなくいつもの僕の手だ。できれば顔も見てみたいが、今は叶うまい。


 鼓動の落ち着きと共に視野が広がり、目の前にある靄(もや)が次第に晴れて行った。僕が今いる部屋の壁は厚く窓は存在しない。4、5メートルはある天井近くに半円のアーチが幾重にも重なった装飾があり、宗教性は感じられない建築物のようだ。詳しくはないが、ロマネスク建築というか旧ローマ時代の建築物に近いもののような感じがする

 

「あの…」


 極めて冷静なフリをして、か細い声を振り絞った。


「君は、当たり前のように日本語が通じると思っているようだね。」


 またしてもハッと気付かされ、自然と右手を口元に当てて目を丸くした。

 僕は結局少女の警告も、自らの反省も、経験から得た知見も無視し『あたかも当たり前のように会話をしてしまった』のだ。

 彼から日本語で話しかけられたという事実を汲んだとしてもだ。


「ふふ、冗談だよ。」

「君があまりにも純粋そうだからつい意地悪を言いたくなっただけだよ。」


 

 


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