第5話 接触


 「誰かにつけられているな。」


 いや、気のせいかもしれないが、僕の直感が正しいと判断出来るような材料はないけれど、ちょっと試してみるか。


 次の角を曲がったら、ダッシュしてもう一度元の場所に戻ろう。

 

 せぇの!


 「ずだーん」


 盛大に転んでしまった。うーん、これは恥ずかしい。つけられているってのが僕の勘違いであってほしい。

 これが漫画だったら食パン咥えた女子高生とぶつかるってのがセオリーなんだが、なんとも思ったようにはいかないな。

 準備運動もせずにいきなり走り出したら足がもつれてしまうってこういうことなんだろう。

 冷静に自己分析してはみるが恥ずかしいことには変わりはない。

 気を取り直して、と思って立ち上がったところ、後ろから猛スピードで駆けてくる人影があった。

 

 清楚な学園スタイルにフェルト地の帽子を被り、濃紺色のリュックを背負った女の子がそこにはいた。

 立ち上がった僕は、その子を見下ろしたまま、何か声をかけようとしたところ、その子はロボットのような動きで回れ右をし、まるでギクシャクと音がしているように右手右足を同時に動かした。


 「いや、無理があるだろ!」


 その子はビクッとなり、背負っていたリュックの肩紐を両手で握りしめ、振り返りながら僕の顔をじーっと睨みつけてきた。


 「な、な、何でもないですぅ。」


 「わかいい、いや、かわいい!」じゃなくてハッとして僕は咄嗟にその子のリュックをへしっと掴んで軽く持ち上げてみた。


 「やめてください。変態ですよ!」


 足の回転円が見えるぐらい必死になって足をジタバタさせるその子に苦笑しつつ、確かに、こんな幼い子の鞄を掴んでいては変態か犯罪者だなと思い返し、


 「僕に用事があるんだろう?」

 「そんなわかりやすい反応見たら僕のことをつけてきたってことぐらいわかるよ。」

 

 両頬を膨らませながら「ぶー」と言いながら、一枚のカードを手渡した。

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