第18話

号外ごうがい、号外だよー」

「そうかも知れないけど、なんか違うからねそれ」

「凄いな東、お前が喋れば喋るほど私達の方に女子が寄ってくるぞ」

「何でだよ、てか帰れよ野郎ども」

 東は男の波に埋もれながら抗議の声をあげる。私は何事かと好奇の目で近寄ってくる生徒にちらしを渡す。

「天ヶ瀬聡と私、鳳凰院沙耶の交際の支持をお願いしますー」

「あっ、沙耶ちゃん。ゲーム超面白かったよ。利沙りさちゃんとそうの絡みは最高だね。あのキスシーンなんて涙が止まらなかったよ」

「想はあげないからな!」

「何言ってるの想君は皆の嫁だよ」

 彼氏じゃなくて嫁なことに戸惑いを覚えながらも、つい口走ってしまったことを後悔する。「Printf Dear Ms.」が宣伝のためにシナリオを依頼して作ったノベルゲームだ。当然、プログラム部分は自分で設計している。シナリオにも私の好きな要素が多いに含まれていたりする。

 私もテストで何度もやってみたが、頭が茹だりそうだった。子供の頃に何度か読んだ少女漫画に通じる部分がある。想君は強引すぎるよー。


 山神が待っている教室に向かう。道中、周りの女子生徒から好気の視線を向けられた。俺は何もしてないはずだ。

「お願いします。山神様……」

覇気はきがないわね。……もう一度」

 いい加減、目の前で椅子に腰を掛けている山神を殴りたくなってきた。けど俺の目的を達成するためには、重要な人物の一人であることは間違いない。

「頼む、山神」

 下ろしていた頭をあげると、案の定、山神が腹を抱えて笑っていた。初めて見た時、おしとやかなお嬢様だと思っていた俺を殴ってやりたい。

「で、くれるのか。くれないのか」

「別にいいわよ。私にデメリットもないし。親しい友人の頼みとして聞いてあげるわ」

「いつの間に友だちになったんだ」

「格ゲーを共にやったら漏れなく友になるのよ。私、ゲームのフレンドは本当の友達だと思うタイプなの」

 山神は後ろに隠していた用紙にペンで名前を書く。

「署名による保証ね。まあ、私みたいに影響力を持っている生徒もこの学院にはいそうだし、効果がないとも言いきれないわね」

「無駄だったとしてもやることやるしかないだろ」

「……うん、やっぱり今の貴方のほうが自然でカッコいいわよ」

「ごめん、俺彼女いるんだ」

「頭湧いてるのかしら」

 一度言ってみたかったんだ。許してくれ。

 

 数日後に集まったのは、龍と東風のものだ。東に頼んだら。「はん、俺は権力とは無縁な男だぜ。とういか反逆者だ」と言われ断れた。

 最後の一人は、常に身近にいる人間だった。夕食が終わった後、俺は初めて雪花の部屋の扉をノックする。雪花の方から部屋に突撃してくることは会っても逆はなかった。今思えば、雪花が距離を縮めてくれてたのだろう。そうでなければ今も俺は一人で部屋にいたのかもしれない。

「あら、夜這よばいからしら。彼女持ちなのに強欲なのね」

 体を抱きしめながら雪花が後ろから言ってくる。

「いつも通りで安心したよ、妹よ」

「ありがとう兄様」

 雪花は目の前で扉を開けて、そのまま部屋に入る。俺は恐る恐る踏み入れる。

「不法侵入」

「じゃあ最初からちゃんと締めてくれよ」

 雪花の部屋は真っ白で小綺麗なベッドと、白色の木材のインテリアで構成されている。学習机の上に置かれた写真立てにふと目がいった。額縁の中の写真には幼い雪花と思わしき人物と、これは……天馬さんか。あと……俺と、写真に写っているのは俺と離婚した父だった。

「憶えてなかったでしょう?」

「…………全然、憶えてない」

「まあ、子供の頃だもの。当然よね」

 恥ずかしそうに雪花は額縁を撫でる。

「私は憶えているわ。ちゃんと、ね。それで何の用かしら?」

 俺は一瞬、言葉に詰まる。これだけ言われても俺には雪花と出会った記憶も、この屋敷に来たことも思い出せはしなかった。

「助けた人間が憶えていなくても、助けられた人はちゃんと憶えてるからそれでいいのよ。別に恩を感じて貴方に遠慮したこともないわ。貴方に助けられたかどうかに関わらず私は私なのだから。今度は私に助けさせてくれるのかしら?」

「俺が天ヶ瀬家当主の後継人であることを保証してほしい」

「それは空閑に勝ったら、という話じゃないの?」

「天馬さんはな……」

「確かに私は言ってないわね。けど、いくら天ヶ瀬でも末娘にそこまでの価値があるとは思えないわ」

「それでも必要なんだ」

「私は書かないわ。代わりの人を用意しているから。天ヶ瀬空、私の兄よ」


 突き出されたスマホは既に電話をかけていた。慌てて耳元に当てる。

「やあやあ、随分と雪花に好かれてるんだね。嬉しい限りだよ、聡くん」

「初めてまして」

 どこか調子が天馬さんに似ている。

「堅苦しいね。けどそういうのも嫌いじゃない。……それにしても沙耶ちゃんに彼氏ができるなんて想像つかないね」

「沙耶を知ってるんですか?」

「頼まれてコンピュータ関係のことを教えていたこともあったよ。僕の今の仕事はそれだからね。あの子、周りの人間と遊ばなかったらさ。ちょっと……心配だったんだ。けど安心したよ。雪花の憧れていた君がついていてくれるなら安心だよ。…………さあて、長話は明日に響くからね終わりにしよう。僕は君を支持するよ。手紙にして送る。そもそも継ぐ人間が君しか居ないからね。雪花が成るなら話は別だけど。どうもそのつもりはなさそうだ。後は君次第だ」

 次の日、龍の提案した選挙で俺達の関係は認められた。

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