第11話
数日後の昼休み、開いたスマホの画面には鳳凰院のデフォルメされたキャラクターが猫達に祝福されていた。コイツは、負けたら山神も祝福してやったのか?あれだけやる前は弱気だったのに、結局最初から勝つつもりだったらしい。鳳凰院らしいと言えば、らしいけどな。
「ちょ、妖怪よ。妖怪がいるわ。見られたら心を読まれるわよ」
「えっ、マジ。あたしの彼氏がM野郎なのバレてる?」
バレてなかったんだけど。どうでもいい情報が手に入った。最近は、この噂と生徒会長の話でもちきりだ。前者は早急に消えてほしい。女子を見るだけで変態だと思われ、男子を見ると怯えられる。教師は事務的に対応してくるし、これはもともとそうだが。俺に味方は居ないのか!
「嬉しいシチュエーションね、聡くん」
あともう一つ、問題が現れた。
「あの山神さん、不満だからって噂を増長するの辞めてもらっていいですか?」
「そんなことしてないわよ」
棒読みで顔を逸しながら言われる。……嘘つけ。俺じゃなくても分かる。
「まさか、本当に逆転されるとは思っていなかったわ。やっぱり身内を止めたほうが良かったかしら?」
「犯人知ってたんですか?」
「いえ、それは本当に知らなかったわ。調べたらどうなるかは分からなかったけど」
突然、勢いよく教室の木製の扉が開く。……たった一つの行動でここまで問題が起きるとは、俺も捨てたものじゃないらしい。
「聡、今日こそ一緒に弁当を食べるぞ」
銀の髪を振り乱し鳳凰院が教室に突撃してくる。隣の志帆からは乾いた笑い声が聞こえた。俺も同じ気分だ。
「うん、役に立たないな」
俺はキーボードの前で冷や汗を流していた。
「Grapeのオフィスソフトを扱えないくせに俺の仕事を手伝うとはよく言ったものだ」
龍が頭に拳骨を振り下ろし、グリグリとやってくる。結構痛い。手伝うと約束したのは、俺ではなく妹の方なのだが許してはくれないだろうか?
「昔から苦手なんですよ。パソコン。何ですか、pdfとか、pngとjpegとか同じじゃないですか」
「pngとjpegの違いは知らなくて良いかもしれないが、pdfは知っておけ!」
俺は分からなくなるたびに龍に聞くので、イライラが
「熱心な生徒でしょう?」
「前に無能が付くがな。無能で熱心な奴が手伝いに来るとは嫌がらせか、そうだ嫌がらせだろう。ああ……鳳凰院にでも教えてもらったらどうだ?アイツは得意だろ?」
頭の中には、最近やったらと突っかかってくる緑の瞳の少女が思い浮かぶ。テンションが高いかと思えば、髪をいじって黙り込む。情緒不安定だ。……ないか、ギャルゲーと現実は違う。ただ、確かにパソコンを教えてもらうぐらいなら許されそうな気がした。
「うるさい、何でもない!我は何も言ってない。いいな!」
ゲームの画面の中でエレインさんが鈍感主人公に怒っている。ギャルゲーの主人公は意外と能動的なタイプもいるのだが、この作品の主人公はラブコメ主人公並みの難聴らしい。
後ろで箒をリズミカルに掃く音が聞こえる。空閑は律儀なもので、誰かがいるときは掃除機を使うことはない。それでこの屋敷を一人で掃除しているのだから大したものだ。日頃の感謝を伝えなくてはいけないな。
「好きだ、空閑」
「先生、聡君の脳内に寄生虫が入ったらしいです。ええ、ええ、とても、とても深刻です」
電話を持った振りをしながら、空閑は喋る。
「……現実は残酷だな」
「良かったですね雪花様に言わなくて、一生笑いものですよ。録音されてインタネットで配信されます」
「それ犯罪だから。勝手に流さないでくれ」
「……あと、冗談ではその言葉を口にしないように」
空閑には珍しく真剣な声色で言う。確かに無責任だったかもしれない。
「本気で貴方の言葉を受け取る人がいるとは思えませんが」
「一言余計だ」
昼休み、いつものように鳳凰院が教室に襲来した。机に置かれたお弁当は、色鮮で如何にも健康に良さそうだ。
「……鳳凰院って意外と料理できるよな?」
「むっ、意外とはなんだ。私は一時期、本気で背を伸ばそうと食生活の改善と筋トレを行ったんだぞ。……ははは」
鳳凰院の口から乾いた笑いが溢れた。結果……出なかったんだな。俺は用意しておいたコンビニのおにぎりを食べる。鳳凰院はなぜか、恨めしそうにおにぎりを睨んでいる。
「おにぎりに親でも殺されたのか?」
「ああ……父はおにぎりを喉につまらせ死んだ。……なわけないだろ。残念ながら現役で両親ともにビジネスをやっているよ。サトリの噂は嘘なのか?」
「最初から嘘八百に決まっている」
「モテる男は鈍感なのかね?」
東が肩に手を置いてそう言う。
「彼女居ないんですけど」
「いや、けど選挙の一見で女子からの人気は増えてるぞ。特に……」
「特にって何だ。死体蹴りされてる気分だ。もっと他のことでモテてくれ俺。そうだ、鳳凰院に頼みがあるんだけど」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます