第59話 見つけた……

実家には当面必要な荷物だけ送り、本格的な引っ越しは八月中に行う予定だった。

七月最後の土曜日、僕は駅にある有名チェーン店のカフェで列車の時間を待っていた。


ここを離れる前に、もう一度小梢に会いたかったが、プロポーズ大作戦が不発に終わった今、少し時間を空けた方が良いかと思い、会いたい気持ちは封印する事にした。


八月になったら、ここへ戻ってきて小梢と会って、これからも今まで通りの関係を続けられれば、今の僕には上出来だとも思えた。


実家は、東京から一番遠いと言われる程の過疎の町にある。実家に戻れば、こうやってカフェでのんびりコーヒーを飲むこともないのだと思うと寂しさがこみ上げてきた。


BGMが流れる店内でボーとしていると、大学時代にサークルの合同説明会で独りぼっちだった時の事を思い出した。

あの時も、僕は独りぼっちだった。


その時、小梢が現れたんだ……。






「見つけた……」


そう、僕に黒髪の美少女が声をかけて来たのだ。


「?」


「ここ、良いかしら?」



僕の目の前に突如、黒髪の美女が立っていた。

長いまつ毛が少し汗で濡れている。頬は赤く火照っているが色白で唇はふっくらとして、アイドルや女子アナに劣らない美貌だ。


でも、目には強い意志が宿っている。



「あ、ああ……。どうぞ」

何なんだろう? 突然現れて、僕がここに居る事は知らせてなかったのだが……。


「アパートに行ったけど、もう出てたみたいね。探しちゃった。

これ、貰うね」

そう言いながら小梢は、僕のアイスコーヒーを喉に流し込んだ。


「メッセージをくれれば良かったのに」


「慌てて出て来たからスマホを忘れたの、それに、あなたを探したかったのよ」


「う、うん……」


小梢の意図が見えない。僕を見送りに来たのだろうか?



「あなたの事だから、どうせ気づいてないと思って」


「何が?」




「『YES』よ」




「え……と、それって?」


「だから、一度しか言わないから!

でも、良いの?


わたし、家事が出来ないよ」

小梢は照れたように舌をペロリと出した。


「それは……、おいおい覚えて行こう。というより家事は分担しよう」




「それから、ビールは二缶がノルマね 笑」


ノルマって自分に科すものなのに、使い方が間違ってないか? と思ったが余計な事は言わない。


「う、うん。たまには休肝日も必要だよ」




「頑固だし、素直じゃないし、めんどくさいよ、わたし」

そう言うと小梢はウインクしてみせた。


「(い、いまさら?)それも知ってる」


どうやら、先が思いやられそうだ……。僕の喉がゴクリとなる。


「あと、運動不足にならないようにジョギングするわよ」



「(まさか毎日じゃないよね?)う、うん」





「最後に、一番大事な事を伝えたい」


「(ま、まだあるのか⁉)う、うん……」



小梢はそこで少し息を整え、勿体ぶる。






「あなたが好きよ。圭君」





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