第37話 試験対策中

「こら! ちゃんと集中しないか」


「だって、疲れたんだもん~」


「来週は体育祭だから、今日できる所まで行かないと。

何度も言ってるけど、内申点は1学期と2学期の成績で決まるんだ。

公立高校の場合、内申点がものを言うんだぞ。少しでも良い点を取っておいて損はないんだ」


「はいはい、分かってますよ。

せっかくできた彼女とのデートも我慢して付き合ってもらってるんだし、わたしも頑張る気でいるよ。


でも、少しは休ませてよ」


僕は今、緑彩の部屋で期末試験に向けての試験対策中だ。

高校受験の対策そのものは塾に通っているので、そちらに任せるとして内申点に関わってくる定期テストは僕がついてやる事になったのだ。


「ねえ、雪村先生とはいつデートしてるの?

いつもジョギングを一緒にしているだけ?

付き合っていると思ってるのは圭ちゃんだけじゃないの?


ほら、よくあるじゃない。自分は付き合ってるつもりでも相手は単なる友達と思っていたなんてさ」


「うるさいな~

直ぐにその話題を振りたがるんだから」


「だって、気になるじゃない。

昨日は会ったの?」


「昨日もジョギングしたよ。いつもそれだけだ」

嘘だ。本当はジョギングの後に僕の部屋に寄ってイチャイチャしているのだ。

昨日の小梢も僕に抱かれながら身をよじらせていた。


思い出すとまた、頬が緩んでしまう。

何といっても学校では素っ気ない態度の小梢が僕の前ではデレて可愛い仕草をしてくれるのだ。


「むふっ


むふふふふ……」


「うわ!

またおかしくなった!


それ止めなよ、圭ちゃんマジで気持ち悪いって!

雪村先生に嫌われるよ」



「そ、そうだな……

ちょっと気が緩んでしまった。気を付けるよ

それより! 続きやるぞ!」


「はいはい、あ~~、国語は圭ちゃんより雪村先生に教わりたいな~」


「そんな事、できる訳ないだろ。

ただでさえ教師の仕事は多いんだ。僕がこうして緑彩の勉強を見ているのは教師としてではなく従兄としてやってるんだぞ」


「だってさ、圭ちゃんが雪村先生と結婚でもしたら、私の従姉になるわけでしょ?」


「それもそうだな……」


(森岡小梢……)


「むふっ


むふふふふ……」


「うわあ! また!」


「あ、ゴメン、ゴメン。

結婚だなんて言うから、つい想像しちゃったよ」


「イヤラシイ~、変な想像したんでしょ?

裸にエプロンとか~」


「なんで、そうなる……」と言ってみたものの、小梢が裸にエプロンの姿で出迎えてくれたら、どうなるだろうか、想像して頬が緩みそうになるが、直ぐに現実に戻される。


(絶対にありない。もしそんな事を口にしたら、また叩かれるのがオチだな)


「でもさ、どうしてお母さんにも紹介できないの?

雪村先生の事」

緑彩が頬杖を突きながらつまらなさそうに呟いた。


「緑彩はまだ学生だから分からないだろうけど、社会人の職場恋愛はナーバスなんだよ。しかも教師の場合、ナーバスにならなきゃいけない相手が先生だけじゃなくて生徒や保護者と桁違いに多い。

そんな好奇の目を小梢に向けられて欲しくないんだ」


「ふ~~ん、圭ちゃんって、ホント雪村先生の事が大切なんだね」


「そうだよ、人を好きになるって、その人の事が何よりも大切になるんだ。だから、僕は今、小梢と事を第一優先にしてるのさ。

そういう状態なのに、お前の勉強の手伝いをしてるんだぞ、ありがたく思って頑張ってくれよ」


「はいはい、ちぇっ。やぶ蛇だったわ~

でも、そうやって雪村先生の事を思ってるから学校ではバレないように振る舞ってるんだね。感心、感心。

わたしにあっさりとバレちゃったから、もっと他の人にもバレるんじゃないかと思ったよ」


緑彩には油断して小梢との仲がバレてしまったが、その後は特に気を付けるようになったので他の人にはバレていないはずだった。

もっとも、小梢の母は週末のジョギングで帰りが遅いことで、小梢がおそらく僕と一緒であろうことは気づいているだろう。


「そう言えばさ、陽菜さんにもナイショにしろって、どういう事なの?」


陽菜はちゃっかりと緑彩と連絡先を交換していた。そのため緑彩には陽菜にも小梢とつい合っている事は内緒にするように釘を刺していた。


「前にも言ったが、陽菜は好奇心が旺盛だからな、また学校をさぼってこっちにでも来られたら困る。

彼女は学校以外にも家庭教師のバイトをしてるんだ。僕も大学生の時にバイトしていたんだが、そこの運営会社の人も知ってるし、なにより生徒さんが困るだろ。

緑彩も、僕が教えたり教えなかったりしたら困るだろ?」


「う~ん、たしかに困るけど、陽菜さんがな~

圭ちゃんになにか変わった事はないかって、定期的に聞いてくるんだよね。

もしかしたら、圭ちゃんって陽菜さんと何かあった?」


やはり、女の子のカンは鋭い。陽菜は僕が小梢と付き合いだすのを待っているのだ。自分がゲームを楽しむために。


「何度も言ったように、陽菜は教え子、それだけだよ」


「そうかな~ 陽菜さんって絶対に圭ちゃんの事が好きなんだと思うけどな。

でも、意外だな~

圭ちゃんが女の子にモテるなんて……


そうだ」


そこまで話すと、緑彩は何かを思い出したように目を大きく見開いた。


「どうしたんだよ、急に」


「二年生の有村さんって、どうなったの?

その為に見回りを雪村先生と始めて、それがきっかけで付き合い始めたんじゃない。

言わば、有村さんって圭ちゃんの恋のキューピットでしょ。」


「どうなったのって、有村さんの事は担任の井川先生にまかせてるよ。

僕が口を挟む事じゃないし、学校からも特定の生徒に肩入れしないよう注意されてるし」


「そうか~

有村さん、圭ちゃんの事が好きなのに、可哀そうな気もするな~

優しくするだけ優しくして突き放すなんて、お主も悪よのう~~」


恋音が僕を好きだと知っているのは陽菜だけだ。おそらく陽菜から聞いたのだろう。


「なんだよ、その悪代官みたいな喋り方は。

『緑彩さま程ではございませぬ』とでも返して欲しいのか?

その情報も陽菜からだろ」


「えへへ、口が滑っちゃった 笑

でも、あまり冷たくすると、いくら子供でも黙ってないかもよ。

女の子は怖いんだから」


「そ、そうだな……(というか、お前も子供だろ)」



それは僕も重々心得ている。





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