第27話 対人能力

「げ、ゲームって?」


「そう! 恋はゲームよ。 ロールプレイングみたいなね。

だから、ラスボスが居ないとエンディングが盛り上がらないでしょ?」


「そ、そうか……」


どうも陽菜の宇宙人っ振りに僕はついていけない。

「つ、つまり君は、自分がゲームを楽しみたいから僕たちを復活させたい……という事なのか?」


「なんだか意地悪な言いかたね~

『復活の呪文を唱えてる』とか、粋な言いかたできないの?


普通に圭と付き合っても、ツマラナイもん。

ワタシ、二百人斬りの美少女だし~、圭がワタシを好きになるのは当然じゃない」



「(二百人斬りって、使い方間違ってるぞ……)凄い自信だな、僕が小梢と付き合ったとして、陽菜が小梢――つまりラスボス――を倒せるとは限らないじゃないか」


僕の返答に、陽菜はこれ以上ないくらい驚いた顔をしてみせた。

「そんなはずないじゃない。ワタシの方が可愛いし、圭との時間もいっぱい過ごしたんだよ。最後に圭はワタシを選ぶよ。『愛は勝つ!』ってね 笑


でも、不戦勝はナシ!

だから、小梢さんには頑張ってもらわないと」



「(あまり話してると、疲れてしまう)まあ、ありがたく塩は受け取っておくよ……


そろそろ出ようか。

あ、出る前に叔母さんにメッセージ送らなきゃ」



僕はスマホから叔母にメッセージを送った。


>叔母さん。これから出ます。今日は急に無理言ってすみません。


>良いのよ、待ってるわね。

>緑彩が拗ねてるわよ~

>圭ちゃんが彼女連れて来るって(笑)


>彼女じゃありませんよ。

>元教え子です。



叔母の家までは僕のアパートから歩いて行ける距離にある。

陽菜と一緒に歩いていると、たまにすれ違う人がチラチラと陽菜を見ているのが分かる。アイドル顔負けの美少女に露出の多い服装だ。どうしても目立ってしまう。


「やっぱり、その恰好だと目立つな。

それに、その紙袋は何だ?」


「あ、これ?

東京のお土産、とらやの羊かんよ」


「そんなもの用意してたのか?

急に誘ったのに準備良いな」


「あはは、元々は圭にあげるつもりだったんだけどね」


「だったら、小梢の家にもっていけば良いのに。

今日、明日と二泊させてもらうんだろ?」


「大丈夫! ちゃんと小梢さんの分まであるから」


「ぬ、抜け目ないな……」




そうこうしているうちに、僕たちは叔母の家へとたどり着いた。呼び鈴を鳴らすと叔母が飛んで出てくる。


「圭ちゃん、いらっしゃい~。

まあ、可愛いお嬢さんだこと! 圭ちゃんにこんな美人のお友達がいたなんて、驚いたわ~」


「こんにちは。初めまして。

の一番弟子、磯村陽菜です。今日は突然お邪魔して、すみません」


「良いのよ、良いのよ、さ、さ、入って~」


中に入り、リビングに通されると叔父と緑彩もいた。緑彩はやや不機嫌に見えたが、叔父は上機嫌なのは直ぐに分かった。


「おお~、圭君! 見直したぞ。こんな可愛いお嬢ちゃんを彼女にしてただなんて。あ、緑彩がヤキモチ焼くかな?」


「お父さん、みっともない!

美人に弱いんだから」


「お邪魔します、おじさま。

あ、あなたが緑彩ちゃんね、陽菜です。よろしくね」


「初めまして……、緑彩です……」


緑彩は、圧倒的なオーラをまとう陽菜にやや怖気づいた感じで警戒しているようだった。少し腰が引けている様子もうかがえた。


暫くリビングで叔父と三人で雑談を済ませて、やがて叔母と緑彩が用意した料理がテーブルに並べられたので、僕たちもテーブルに着くことになった。


「圭君は相変わらずお酒はダメなのか?」


「はあ、すみません。直ぐに酔っぱらって眠くなるものですから……」


「圭君が大人になったら、一緒に飲めると思ったんだが、仕方ないか。義兄さんはお酒強いのにな」


「あなた、圭ちゃんに無理強いしないのよ、いつもなんだから」


「あはは、悪い悪い。

お、陽菜ちゃんは、大学生なんだろ? どうだい、ビールは?」


隣で陽菜の涎が零れる音がした気がするが、陽菜はまだお酒が飲める歳ではない。阻止しないと、と思ったが杞憂だと気付くことになる。


「ご一緒したいのは、山々なのですが、生憎ワタシもお酒はからっきしダメで……

あ、おじさま、お注ぎしますので、一緒に飲んでるつもりで飲んでください」

そう言うと、陽菜はビール瓶を持つと、叔父のコップにビールを注いだ。


(嘘つけ! 昨日も『ビール買って~』ってせがんだくせに)


「あ、いけない! こういう時ってラベルを上に向けるんでしたっけ?

ワタシ、あまり慣れてなくて~」


「あはは、良いんだよ、良いんだよ。陽菜ちゃんみたいな別嬪さんだったら、瓶の底から注いでもらっても嬉しいよ 笑」


叔父は、益々上機嫌になりビールも進んでいるようだった。

それにしても、陽菜の対人能力には舌を巻く。あっという間に叔父を虜にしてしまうのだから。しかも、あざとい。


、あまり叔父さんを酔わせないでくれ、叔母さんに叱られちゃうから」


アパートを出る前に、今日はと呼ぶように示し合わせていた。


「ねえ、本当に陽菜さんは圭ちゃんの彼女じゃないの?」


「ああ、何度も言ったろ。陽菜ちゃんは僕の家庭教師時代の一番最初の生徒だって」


「そうよ~、緑彩ちゃん。ワタシも圭先生が教えている生徒たちと立場は一緒よ。むしろ、それに従兄というプレミアムが付いている緑彩ちゃんはポジションは上よ~」


「そ、そんな……ポジションだなんて……。

でも、陽菜さんみたいな可愛い子が圭ちゃんの彼女っていうのも、つり合いが取れなさ過ぎてるし、あり得ないか 笑」

勝手にマウントを取らされ、緑彩は少なからず機嫌を直したようだった。


そして、いつの間にか、陽菜を中心に昼食会は進むのであった。





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