第26話 どっちが可愛い?

「『わたし』の何なの?」



(ま、マズイ!)


何といっても、陽菜にとって僕は初キス、初体験の相手である。

僕は思わず陽菜の口を塞いだ。

「だから、声が大きいってば、もっと抑えろよ」


「うぐぐ……

なによーー、ワタシに喋られたらマズイ事でもあるの?」

そう言うと、陽菜はガブリと僕の手を噛んだ。


「あ、痛ったたた。

何するんだよ? 痛いじゃないか」


「なによ、慌てちゃって。何かワタシに喋られたらマズイ事でもあるの?」

と陽菜は繰り返した。


「いや、だから、中学生相手に喋って良い事と悪い事があるだろ」

恋音に聞こえないように小さな声で囁くが、恋音は、『アヤシイ~』と言いたげに僕たちのやり取りを見守っている。


「中学生だったワタシ相手に、あんな事やこんな事をしたの、忘れたの?」


「あ、あれは陽菜の方から」




「で、圭先生は、あなたの『何』なの?」

僕たちの囁きが聞こえたのか聞こえなかったのか、いい加減にしてくれと言わんばかりに恋音が口を挟む。

それに対して陽菜が『お?』と言いたげに反応した。


「お、知りたい? お嬢ちゃん。『あんた、あの子の何なのさ?』 笑」

何故かそう言いながら、陽菜は指をL字型にして僕を指さした。


「え……と、それは何の真似だ?」陽菜の意味不明な行動に僕の思考は周回遅れになる。


「圭はね、ワタシの尊敬するだよ」


(かーーー、よりによって何と恥ずかしい事を!)


「あはは、尊敬してるのに呼び捨てって、変なの 笑」


「ちっ、ちっ、ちっ。歴史上の偉人は呼び捨てにするでしょ?

聖徳太子なんて、超~偉い人なのに、みんな呼び捨てじゃない。

だから、ワタシも圭を呼び捨てにしてるのよ」

そう言いながら陽菜は人差し指を立てて左右に振ってみせた。


「あはは、今は『厩戸皇子』って言うんだよ。

本当に大学生?

面白い子 笑」


いつの間にか陽菜は恋音と打ち解けているようだった。どうも陽菜は頑なな性格の人間と仲良くなるのが得意なようだ。


「じゃあ、何時かワタシも圭先生を『圭』って呼び捨てにできるようになれるのかな……」


そう言うと、恋音は何時か見せた瞳で僕を見つめた。


「あはは、まあ、そうならないとも言い切れないけど、強力なラスボスが控えてるし、道のりは長いぞ、少女よ 笑」


「なにそれ? 意味分からない 笑

あ、ここで良いよ。


それから、先生。ちょっと報告したいことがあったんだけど、今度にするよ。


陽菜ちゃんもありがとう。

縁結びの神様によろしくね 笑」


恋音は、言うだけ言うと、団地に向かって走り出した。




「ねえ、圭……

恋音ちゃんには、ああ言ったけど、立場ってものがるから気を付けなよ。

圭は家庭教師じゃなくて、プロの教師なんだからね」


「分かってるよ。相手は子供だし僕だって教師として自覚してる。ちゃんと上手く対処するよ」


「だといいけど、圭ってロリコンだし、心配だな~」


「だ、だれが『ロリコン』だ⁉ めったな事を言うもんじゃない。

知らない人が聞いて、本気にしたらどうするんだ」


「あはは! そうだね、どっちかって言うと熟女好きだったね 笑」


「もう、その話は勘弁してくれよ……」


「まあ、小梢さんには黙っていてあげるよ。

だ・か・ら、分かってるでしょ?」


「分かったよ、僕が寝ている間に飲んでくれ」


「話が分かるぅ~~、先生大好き~~。


センセイ、センセイ、それはセン~セイ~」




またしても意味不明なフレーズにどっと疲れを増した僕は、家に着くと程なくして眠りにつき、次の日は少し遅い時間に目を覚ますことになる。


二回目の三連休の初日、僕は叔母の家に昼食に呼ばれていた。

陽菜を放っておくこともできず、一緒に連れていくことになっていた。



「どうしょう、今さらながら緊張する~」


「陽菜でも緊張することがあるのか?」


「なに言ってるのよ! 圭の家族に紹介されるんだよ?

まだ小梢さんですら紹介されてないんでしょ?

気に入られなかったら、どうしよう~~」


「だから、家族というより親戚だよ。母の妹、叔母さん家族と会うだけだよ」


「えへへ、まあ、そうだけど、やっぱり緊張するよ~~

叔母さん、ワタシの事を気に入ってくれるかな?」


「いや、別に嫁にくる訳じゃないだろ……」


「あはは、まあ、そうだけど。

好印象を持ってもらうに越したことはないでしょ?」


「まあ、そうだけど、余計な事は言わないでくれよ。

叔母さんと母さんは仲良いから、直ぐに親の耳に入っちゃうし、面倒な事になるからな」


「あはは、圭って大人なのにまだ親の事が怖いんだ 笑

ワタシはママの事を怖いとか思わないケドな~」


「世間一般では、親は何時までも畏怖の相手なんだ。

陽菜みたいに佳那さんと姉妹みたいな関係は築けないよ。

それにしても……、陽菜は何時もそんな恰好なのか?」


「なにが?」


「昨日もだけど、ちょっと露出が多いというか、スカートも短いし、肩をそんなに出して……、その……、なんというか」


「あはは、エロい?」


そう言うと、陽菜は胸を強調させながら身体を左右にひねらせた。ウェーブのかかっった長い髪がなびくと甘い匂いが鼻をつく。

今さらながら、アイドル顔負けの美少女である事を痛感させられた。



「どう?

小梢さんよりワタシの方が可愛い?」


「陽菜は可愛いよ。

でも、小梢と比較するものじゃない……」


「ヤセガマンしちゃって~。

本当は襲いたいんじゃない?」


「もう挑発には乗らないからな。

そもそも、僕と付き合うのを止めて、僕を小梢と復活させようとしてるのに、何でワザワザ邪魔をしようとするんだ?」


「分からない?」


陽菜の意図が僕には分からない。僕の事を『好き』だと言うのは分かっても行動が謎なのだ。どこか回りくどく感じる。



「それは、ゲームだからだよ」



「へ?」





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