第25話 長い付き合い

「お二人さん、ごちそうさま~」


気が付けば、居酒屋で三時間も過ごしていた。

ようやくお開きとなり、僕たちはお店の外で楽しかった時間の余韻に浸っていた。


「小梢さん、本当にワタシが圭の部屋に泊っても平気なの?」


「何度も言ったでしょ、圭君とは単なる同僚だって。

でも、いくら圭君でも三日も一緒にいたら我慢できないかも知れないから、明日からはわたしの家に泊って。

流石に今日は準備できていなかったから仕方ないけど」


「まったく、僕の部屋でも同じようなものなのに。

なんで宿泊先も決めないで出てくるんだよ」


「だって~、GW中だし、直ぐにホテルが取れなかったのよ~」


(絶対に嘘だ! 小梢を挑発するつもりだったくせに)



小梢とは駅で別れて、僕は陽菜と一緒に自宅へ戻る事にしたのだが、陽菜がコンビニに寄って行こうと言うので強引にコンビニに連れていかれる事になった。


「なんだよ、お酒は買わないからな」


「ケチ! 良いじゃない、自分だけズルい。

圭が飲む分だけ買えば良いから、ね」


「僕は家では飲まないんだ!

陽菜が飲むつもりなんだろ」


「違うよ~ 圭が飲んで酔っぱらって寝ないと、ワタシを襲いたくなるでしょ?」


「(襲うとしたら、お前の方だろ!)とにかく、お酒はダメ! 買い物だけする」

押し問答をしながらコンビニに入ったのだが、そこでまたしても恋音と出くわすことになった。


恋音がこのコンビニに居る確率は高いので驚きはしなかったが、陽菜と一緒にいると事を見られるのは不味いような気がした。


「あ、圭先生……」と言いかけた恋音の表情が険しくなった。


「あれ?

もしかしてこの子、圭の生徒さん?

可愛い~

、お名前は?」


予想通り、陽菜が恋音の事を挑発する。かつて自分が小梢にやられた事を恋音を相手にやるつもりなのだ。


「有村恋音。


てか、誰? この子。

圭先生の彼女……とか?」


「そんなんじゃ、ないんだ。

東京で家庭教師していた頃の教え子だよ。大学生なんだ。

GWだから、遊びに来てくれたんだ。

良い歳して恋人もいないものだから、ほら、縁結びの神様にあやかりたくてな」


「ふ~~~ん」

僕は半ば冗談のつもりだったのだが、恋音は意に介さず、陽菜の事を頭のてっぺんからつま先まで値踏みするかのように視線を巡らせていた。


「へ~~、『こいと』ちゃんって言うんだ。

可愛いのね、ね、こんな夜更けに買い物?


あ、ちょっと圭! 誰が『恋人もいない』よ、ワタシがモテるの知ってるでしょ」


「呼び捨て……。

どうでも良いけど、子供扱いするのヤメテもらえますか?」


「あら、そういうつもりはないよ。

でも、こんな時間に女の子が一人でいるのは、良くないかなって思っただけ」


「暇だから漫画でも読もうかと思っただけだし……、もう帰るもん」



これ以上二人に会話させていたらどうなるか分かったものじゃない。

「有村さん、だめじゃないか。

この間も注意しただろ? 夜間に外出していたら補導されることもあるから、無暗に出歩かないようにって」


「だって、ここに居たら……」

僕に注意されて、恋音は口をへの字に曲げごにょごにょと言葉を濁した。



「ちょっと、圭」


「あ痛ったた……」


恋音と話していると、陽菜が僕の耳を引っ張ったかと思うと、耳元で囁いた。

「ね、ねえ、この子って圭の事が好きなんじゃないの?」


「うるさいな~、今はそんな事どうでも良いだろ?」

僕も呼応して小声で返すが、そのやり取りを怪訝そうに恋音が見守っている。とにかく、恋音を家へ帰さねばならない、それが第一優先に思えた。


「さ、有村さん、帰ろう。送っていくから」


「ワタシの事なんて放っておいて良いのに。どうせ、その子とこの後イヤラシイ事するんでしょ」


「い、イヤラシイ事って、君の妄想だよ。そんな事は心配しなくて良いから、とにかく帰ろう、な?」


「圭、買い物は?」


「帰りにまた寄るから、とにかく、有村さんを家に帰さなきゃ。

好きなもの買ってやるから、ガマンしてくれ」


「やったーー!!

じゃあ、善は急げだよ、さ、さ、帰ろうか。

コ・イ・トちゃん」


「ちぇ、お節介なんだから、圭先生は。

それに、邪魔者もいるし、最悪ぅ~」



思いがけず、またしても僕は遠回りをして家路につくことになる。しかも、今度は陽菜まで一緒だ。


ガラガラとキャスター付きバッグを引きずる音が、静まり返った住宅街に不気味に響いていた。



「ああ~~、邪魔者が居るから、今日の夜空はイマイチだな~~」


「なに~~? 邪魔者ってワタシの事?

可愛くない子ね~ 笑


ねえ、恋音ちゃって、圭の事が好きなの?」


「あなたには関係ないでしょ。

そもそも、こんなオジサンなんて恋愛対象じゃないし」


「お、オジサン……」


まだ23歳なのにオジサン扱いされて、少なからず僕は凹んだ。


「あははは‼ 圭、オジサンだって、ウケるぅ~~ 笑」

そういって陽菜は大きな笑い声をあげた。


「し、静かにしろよ、東京と違ってこの時間は皆寝てるんだ」


「まさか~~、鳥じゃあるまいし、早すぎない?」

そう言って、またしても陽菜は笑い転げた。どうもこのくらいの歳ごろの女の子は笑いの沸点が低いようだ。



「仲良いんだね……、二人とも」

僕たちのやり取りに、恋音が湿った反応を示した。少し不快の音色も込められているように感じられる。


「そりゃ、そうよ。

なんたって、ワタシ達、長い付き合いだし~」



「長い付き合いって、圭先生が家庭教師だった頃でしょ。高校生の時からの知り合いなの?」


「ん~と、中三のときからね。

なんたって、圭はワタシの……」





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